カゲツキくんは作り出した何かを全力で投下していきました。
二次創作系小説を書き散らかしつつ、個人的に興味深いホビー(TF系多し)について騒ぎ立てるブログだったのですが、最近では自分で何やってるのかよくわかってません。そんなカンジのブログです。
ほむらーど・グラス⑧~そんなの、あたしが許してやる
前回のあらすじ
ワルプルギスの夜との最終決戦に向けてたった一人で対策を練っていた杏子。
しかし、暴走しソウルジェムが限界まで濁ってしまったさやかを案じて行動を起こしたが、杏子の努力が功を奏することはなく、さやかのソウルジェムはグリーフシードに……。
また、まどかの身体が充分に操れなくなったほむらは、突如現れたインキュベーター達のリーダー・ノリべえと遭遇し、これを排除した。そして……。



うん、まともな文章に見えるよね(爆)
そんなわけで第八話です。みんな大好きオクタヴィアちゃんです。
そして杏子ちゃんは聖女です。
常識ですね、ハイ。

↓こちらリンク集でございます。これもう同人誌に出来るんでねぇの?(
第一話
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話
第七話



CAUTION!!
※魔法少女まどか☆マギカ本編に関するネタバレが含まれています
※このループでのほむらさんはおいたが過ぎたので退場させられましたが、まどかがほむらの業務を引き継ぎました
※このループでのキュゥべえはきれいなキュゥべえです
※キャラ崩壊が悲惨です
※オリジナルキャラのノリべえ/フレイムインキュベーターが登場します



以上の点を御理解いただいた上でお読み頂ければ幸いです。






 感情相転移エネルギーを吐き出し、希望の残りカスとなったさやかは結界を形成した。線路と楽譜が張り巡らされた結界の中心に、さやかの魂が醜く変身した魔女が居た。名前はオクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ。ハートの意匠を散りばめ、甲冑を着た巨大な人魚という出で立ちが、奇妙な存在感を放っていた。
 杏子はオクタヴィアの足元で寝そべっている抜け殻となったさやかの身体を回収するべく疾走するが、オクタヴィアに敵として認識されてしまい巨大な車輪による攻撃が敢行された。
「何なんだよ、てめーは一体何なんだ!?」
「ヴァアアアアアアアオオオオアアアアア!!」
「さやかに、何しやがった!?」
 降り注ぐ車輪を軽やかに回避しながら、無事にさやかの身体を回収した杏子は自身の感情よりも戦士としての勘を優先した。
 このままあの人魚の化け物を殺しても構わなかったが、回収したさやかの身体は間違いなくデッドウェイトになる。かと言って捨てるわけにもいかない。そうなると一旦出直した方が利口であると瞬間的に判断すると、結界の出口を目指して駆け出した。



 自分自身にかけた呪い同然の魔法が杏子たちの運命を変えることになるとは、このときの杏子は気付きもしなかった。



ほむらーど・グラス⑧~そんなの、あたしが許してやる



 杏子は苛立ちを露骨に見せながら、線路の上を歩いていた。抜け殻になってしまったさやかの身体を抱きかかえて。
 偶然にも、向こう側からまどかが姿を見せた。思わず顔を背けた杏子だったが、さやかが言い残した言葉を思い出して思考停止に陥った。
『どうやったのか知らないけど、まどかになりすまして私を殺そうとした。多分、アイツは私をハメるためにまどかの身体を好き勝手使ったんじゃないかな?』
 つまり、ほむらが死を偽装してさやかの親友になりかわっていた、ということ。戦士として尊敬していたほむらが、そんな卑劣な手を使ったとは到底信じられなかった。だが、まどかがほむらの魔法や武器を使っていたことに関しては、それで説明がついてしまう。
 今、あたしの目の前に居るのは相棒なのか、それともさやかの親友なのか――そんな疑念が、杏子に根付いていた。
「さやかちゃん!?さやかちゃん、どうしたの?」
 力の抜けきったさやかを目にしたまどかは、そう言って杏子に駆け寄る。杏子は返事を寄越そうとしなかった。
「ね、ソウルジェムは?さやかちゃんはどうしたの!?」
「その前に、答えな。てめーは、あたしの相棒か」
「……私が、ほむらちゃんみたいに強いわけないよ」
 ひどく弱々しい態度のまどかを見た杏子は、とりあえず目の前の少女が鹿目まどかであることを確認すると、ざっくばらんに何が起こったのかを説明した。ほむらは人前で弱さを絶対に晒そうとしないのだ、間違いなく今のまどかはまどかであるはず。
「さやかのソウルジェムが、グリーフシードになって消えた。残ったのは魔女とこの抜け殻だけだ」
「嘘でしょ……」
 まどかは、起きてしまった最悪の事態を理解しようと、現実として受け入れようとしなかった。
「そんな、どうして……?さやかちゃんは人を守りたいって、正義の味方になりたいって、そう思って魔法少女になったんだよ!なのに……」
「黙れ!!」
「ひいっ!?」
 杏子はまどかを一喝すると、まどかに背を向けて立ち去った。
「もうお前の手に負えるレベルの話じゃねぇんだ、とっとと帰って寝ろ」



 深夜三時。大気圏外からのレーザー攻撃でノリべえが射抜かれた場所に、まどかの姿はあった。
 そこに、ノリべえが飲み屋の暖簾を潜ってきたリーマンのようにのそのそと歩いてきた。
「よォくもまァ、つい数時間前に脳天ぶち抜いた俺とォ、『話がしたい』なんて言えるなァ?おいコラ、あァァァけみほォォォむらァァァァ!!」
「貴方の部下のキュゥべえが、あらかじめ魔法少女の真実をまどかに告げていたことはご存知かしら」
「オイオイオイオイ、そんなバッカバカしいこと信じられっかってんだ」
「そう」
「何なんだおめェ、どうしようもねェくらい貧弱ゥな魔法少女の分際でデカイ口叩きやがって」
「家畜の上司も、家畜でしかないわね。震えあがるほど下等だわ」
「こちとら地球人のみなさんに敵意や悪意を持って契約押しかけてんじゃねェんだよ。お前らの合意をしっかりと確認してから契約してんだ。それだけでも充分に良心的だろうに文句ぶーたれやがって。宇宙を救うための犠牲になるなんて、誇らしい活動の一端を担わせてやってんだァ、感謝してほしいくれェだ」
「そんな宇宙に、生きる価値はない」
「この宇宙には数多の文明がひしめき合って、常に莫大なエネルギーを消耗してんだ。お前ら人類だってそうさ。この宇宙に住まう生命なら、枯れ果てそうになった宇宙を助けようと考えるのが普通なんだ。たかがガキ一人の命のために滅ぼされていいモノじゃねぇ」
「現時点で六十九億、しかも毎秒二人ずつ増え続けている地球人が宇宙の一端でしかないと言うのであるなら、この広大な宇宙にも似たような量の生命体を内包する文明が星の数ほどあってもおかしくないわ。そんなゴミのように溢れかえる生命体を意味もなく抱える宇宙の生き死に一つにそこまで大騒ぎする貴方達の価値基準は理解に苦しむ」
「ゴォミィ!?お前は、命をデブリ帯か何かにしか見れねェのか!!それでも知的生命体か!?」
 母なる星を離れて活動するインキュベーターたちは、宇宙を救うべく活動している。ほむらの言葉は、そんなインキュベーターの必死の行動や宇宙に散らばる生命の意義を全否定するような傲慢なものだった。
 ノリべえには、他のインキュベーターとは違って怒るなどの単純な感情は持ち合わせていた。だが、その程度では感情相転移エネルギーを生産出来ない。一応は自分の感情を基に疑似感情プログラムの研究開発を進めてはいるのだが、なかなか完成しなかった。だからこそ、宇宙に存在する、高度な感情を有する知的生命体から感情相転移エネルギーを搾取しているのだ。
 それでもノリべえの感情は充分に立派なモノであった。宇宙の生を否定するほむらに対して怒りを見せることが出来る程度には。
「まどかを消耗品呼ばわりし、宇宙のために死ねと言うお前たちほどではない」
「さァっきから聞いてりゃよォ、まどかまどかまどかまどかって、何なんだ!?ぶっ壊れた通信装置みたいに繰り返しやがって!」
「だって、まどか以上に貴い命はこの宇宙にはないもの。何故なら」
 ノリべえはまどかの放ったほむらの言葉を聞いて理解した。ほむらはもう精神疾患を通り越して、精神がスクラップになってしまったことを。
「これまで私は見滝原中学校に転入してまどかに出会い、そして死別した一ヶ月を二十五万三千四百四十回繰り返してきた。地球人での言うところの二万千百二十年、ってところかしら。痛みも苦しみも悲しみも孤独も浴び続けながら、私は身の丈に合わない時間を戦ってきた。にも関わらず、肉体と精神の齟齬が生じずこうして理性を保持しながら貴方と話をしていられるのは紛れもなくまどかのおかげ。百年足らずの寿命しか持たない人間の身体と精神が、限界を超えたのはまどかのおかげ。彼女が居たからこそ、私は戦えた。自然の摂理に反逆するような現象を平然と引き起こせるまどかは、何よりも貴いってことが何でわからないのかしら」
「話のついでに弁解に来たつもりだったんだがァ、どうやら無理なようだァなァ」
「そうね。私達と貴方は永遠に敵同士だってことが理解できたもの」
 まどかとノリべえは論争を終えると、互いに背を向けて立ち去った。



 ほむらの自宅に、新しい抜け殻がやってきた。かつて美樹さやかと呼ばれていた少女のものである。
 杏子はほむらとさやかの身体を並べると、自身のソウルジェムをかざして魔法をかけた。死体同然の身体の鮮度を保つためである。
 そこへ、キュゥべえが悔しそうな物言いをしながら現れた。
「間に合わなかったんだね……さやかの魂は新たな肉体を得て魔女となってしまった」
 わかりきったことを言うキュゥべえを無視した杏子は、買い漁ってきたジャンクフードの山を突き崩し始めた。その食事シーンは、理解することなど絶対に出来ないほど凄惨なものであった。包み紙や封を開けずにそのまま口に押し込んで耳障りな音を立てながら咀嚼する杏子。ほむらが死んで以来、料理をしなくなった杏子の食生活はおぞましいことになっていたのだ。
 荒んだ杏子に、キュゥべえは提案を持ちかけた。
「美樹さやかを助けたいとは思わないかい?ボクのことをバカかと思うかもしれないし、ボク自身も今更こんなことを言うのもどうかと思う。でもボクは、本当に助けられないのかどうかを確かめるまで諦めたくない。君だってボクと同じ気持ちでいるはずだ」
 杏子は一瞬だけ手を止めたが、すぐにまた暴食を再開した。それでもキュゥべえは諦めずに説得を続けた。
「自分の魔力を消費してまで死体の鮮度を保っているその行為が、動かぬ証拠だよ」
「じゃあ、さやかのソウルジェムを取り戻す方法はあんのか?相棒はんなもんねぇって言ってたんだよ!何しにきやがった、あたしに無意味な希望を持たせてなんとかエネルギーを搾り取りに来たのかよ!?あ゛ぁ!?」
「確かに、魔女からソウルジェムを奪還したという前例はない。でも、魔女が自我を持ったり人間を守ったりした前例ならある!無意味な希望なんかじゃない、もしかしたらボクが知らないだけで、出来るかもしれないんだ!」
「……出来るって言いきれんのか」
「言い切れない。そんなことは不可能に等しい。でも、魔法少女は条理を覆す存在だ。君が不条理を成し遂げる可能性はある」
 杏子は無言のままキュゥべえの頭と尻尾を掴むと、彼の右前脚を噛み千切って咀嚼し嚥下する。
「ぃぎゃああぁぁぁぁぁあああッ!?」
「てめーの肉はこんなにも美味ェ……憎たらしいほどにな。あたしが今こうやって旨みを堪能できるのはさやかのおかげかもしれねぇ。生きることの素晴らしさを改めて教えてくれたアイツにどーにかして恩返ししてぇんだがよ、もしてめーが協力しなかったり嘘吐いたりしやがったらお前を喰い続ける。あたしの思いつく限りの方法でお前を調理してな」
「ぼ、ボクはどうしても……さやかを助けたい!この気持ちに偽りは……ない!」
 震える声でその意志を告げたキュゥべえから手を離すと、杏子は炭酸飲料のボトルを手にとりキャップを噛み砕いた。
 ボトルの中身を一気に飲み干すと、杏子は満足そうな笑みを見せた。
「豚野郎のくせに生意気なこと言いやがってよ。オラ、手伝え。さやかを助けたいんだろ?」
「ありがとう、杏子……!」



 翌朝、登校中のまどかに渾身のボディーブローを浴びせて気絶させた杏子は、そのまままどかを連れ去った。

「よぉ、まどかの嬢ちゃん。さっきは手荒な真似してすまねぇ」
「う……ん、うん?」
 まどかを誘拐した杏子は、ひとまずはボディーブローについて謝ると、すぐに本題へと移った。
「てめーに話がある。美樹さやかを助けたいと思うなら聞いてくれ。ただ、あたしは確実に助けられる手段なんざ持ち合わせちゃいない。助けられねーから放っておくってんならそれはそれで構わねぇ」
「私だって、さやかちゃんを助けたい……!」
「なら聞けよ。これはあたしの推測だが、魔女になったアイツも友達の声ぐらいは覚えてるかもしれない。呼びかけたら、人間だった頃の記憶を取り戻すかもしれない。それができるとしたら、多分てめーだ。『鹿目まどか』」
「上手く、いくの?」
「あたしの話聞いてたか?確実に助けられる手段じゃねぇんだよ、これは」
 杏子の作戦は、はっきり言って意味などないものだった。それでも成功を信じていた。そうでもなければまどかをわざわざ誘拐したりなどしない。
「わかんねーからやんだよ。もしかしたらよ、魔女を叩き斬ったら、中からグリーフシードじゃなくてさやかのソウルジェムがポロッと出てくるとかさ……そういうモンじゃん?最後に愛と勇気が勝つストーリーってのは。てめーは嫌いか?」
「ううん。素敵だと思う」
 懐からうまい棒を取り出しながら、杏子はまどかに最終確認をした。
「無理強いはしねぇ。すげぇ危ない橋を渡るんだからよ。それにあたしがてめーを確実に守りきれる保証もねぇ。引き返すなら今のうちだ」
「いい、手伝わせて」
 まどかは杏子に握手を求め、改めて自己紹介をした。既にほむら経由で杏子はまどかのことを知っていたのだが。
「私、鹿目まどか。よろしくね!」
「ハン、調子狂うなぁ……。まぁいいよ、あたしは佐倉杏子だ。食うかい?」
 握手の代わりに、まどかにうまい棒を手渡した。

 しゃくしゃくとうまい棒を齧りながら杏子の後を歩くまどか。昨夜のノリべえとの一件でほむらの生存を知ったまどかは、ソウルジェムを使ってオクタヴィアの魔力反応を探していた杏子にこんなことを言った。
「ほむらちゃんも手伝ってくれないのかな。昨日、テレパシーで話しかけてきたから、どこかに居るはずなんだけど……」
「相棒が、ほむらがそういうタマじゃねぇことくらい知ってんだろ?それに、アイツの身体はあたしが回収して守ってた。まさかソウルジェムだけで動き回れるとは思えねぇ」
 杏子には気がかりなことがあった。今、自分の後ろに居るまどかは本当に鹿目まどかなのかということである。
 さやかの最期に遺した言葉が、まどかへの疑念を生んでいた。杏子としてはこの少女がまどかでもほむらでも全く構わなかった。まどかもほむらも杏子からすれば十分な信頼に値するからだ。だが、今回ばかりはそうも言っていられない。まどかならこのまま作戦を実行すればいい。厄介なのは、このまどかがほむらであった場合だ。ほむらがさやかを快く思ってなどいなかったことから、オクタヴィアを容赦なく銃火器で抹殺してしまうことも充分に考えられた。
 しかし、今更疑ったところでどうすることも出来なかった。希望か絶望のどちらかしか入っていないパンドラの箱を背負ってしまった事実など変えようがない。
 杏子はひたすら魔力反応を探すことにした。すると、魔女の魔力を感知したソウルジェムが強く輝いた。
「ここか……」
「鍵、かかってるよ?」
「嬢ちゃん、鍵っつうのはぶっ壊すモンだ」
 工事現場の出入り口にかけられた鍵と鎖を乱暴に引き千切り扉を蹴り開けて先に進む杏子。まどかは戸惑いながらも後を追った。
「ホントにさやかちゃん、かな?」
「間違いねぇ。魔力のパターンはアイツのと一緒だ」
 杏子は立ち止まった。ピンク色のペンキで書かれた、“LoVE Me Do”という文字を見つけ、これがオクタヴィアの作り上げた結界の出入り口だと判断したのだ。
 手にしていたソウルジェムを改めて掲げると、杏子は左手を降ろしつつ右手を前に出した。
「変身……!!」
変身を宣言すると、蛇が獲物を食らうように右手首を勢いよくひねり心臓の手前まで下げ、魔法少女へ変身した。
 首の骨を鳴らしながら得物の槍を二本召喚して両手で一本ずつ掴むと、まどかに振り返って最終確認した。
「覚悟はいいな?相棒が居ない今、何があってもてめーが生きて帰れる保証は出来ねぇ」
「何かもう、慣れっこだし。それに、ほむらちゃんが『熟練の戦士』って言ってた杏子ちゃんなら安心できるもん」
「相棒が……?」
 杏子は思わず嬉しくなった。あの人遣いの荒いほむらが、性格の悪いほむらが、自分の知らないところで自分を『熟練の戦士』と呼んでいたのだ。それはとても誇らしいことであった。なんだかんだで、ほむらは杏子のことを認めていた。
 だが、そんなことしている場合ではないと杏子は頭を振って気を引き締めると、
「ホント、不思議な奴だな……。とにかく行くぞ!」
手にしていた槍の切先を“LoVE Me Do”の文字に叩きつけて結界への入り口を作り出した。



 レンガ造りの通り道。壁にはとあるヴァイオリニストのコンサートを宣伝する旨のポスターが鬱陶しいほど貼りつけられていた。
 魔女の潜む最深部へと続く、結界の通り道を杏子とまどかは歩いていた。
 ポスターのうちの一枚が剥がれ落ち、おぞましいほどに“Look at me”と書きこまれた裏面が見えた。
 結界の入り口の文字と、このポスターの裏面の文字を見た杏子はこんな推測を立てていた。
 もしかして、さやかが魔法少女になった本当の理由は――。
「杏子ちゃん」
「なんだ」
 まどかに思考を中断されてしまったが、一介の中学生にすぎない彼女にとって結界の内部を歩くのは心底恐ろしく心細いのだろうと思うと、怒る気が起きなかった。ほむらから信頼されていたとはいえ、全くと言っていいほど面識のない杏子では若干の不安が残るのも無理はない。
「誰かにばっかり戦わせて、自分で何もしない私って、やっぱり卑怯なのかな」
「安心しな。てめーより卑怯な人間だの魔女だのを死ぬほど見てきたからよ」
「そういうことじゃなくて……!」
「どういうことだよ?命懸けで戦う理由のねぇてめーが今魔法少女になったところですぐに逝っちまうだけなのによ?てめーは相棒の姿を見てなかったのか、話を聞いてなかったのか?」
「でも……」
「でもも何もねぇ。命懸けで戦ったからこそ相棒はあんな目にあったし、命懸けで戦う理由を見失ったからさやかは魔女になった。命を捨てる覚悟を決めて戦うって、そうなっちまうかもしれねぇって理解することなんだよ」
「うん……」
 コンサートホール風の扉を開けると、その先にも通路は続いていた。
 無数の水槽のようなスクリーンが壁に設置されており、スクリーンはさやかの思い出を延々と再生していた。美しい過去を、輝いていた過去を、戻りたい過去を、ずっとずっと。
 中へ進むと、開け放った扉が突然閉まりスクリーンが再生を止めた。
「チッ、気付かれたか!来るぞ!」

 先ほどまでの風景は、文字通りの通路だったのだろう。結界の最深部はコンサートホールであった。
 天井には座席が設けられ、使い魔たちが主の好みの曲を演奏していた。
 この結界の主である恋慕の魔女、オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフは特等席で使い魔たちの演奏を聴きながら楽しげに身体を揺らしていた。
 騎士風の甲冑に、ピンクのリボンとハートマーク状の装飾が加わった巨大な人魚に、思わずまどかは怯んだ。かつての親友がここまで変わり果ててしまったとは思いもしなかったのだ。
「怯むなぁ!打ち合わせ通りに呼べ、叫べ!」
 杏子は吠えると、更に槍を六本召喚して両手に三本ずつ追加した。続いて手にしていた全ての槍の切先を地面に突き刺して、まどかの周囲を柵上の防御結界で何重にも囲った。こうすればまどかは安全だし、仮にほむらだった場合でもオクタヴィアを爆殺される心配はない。
 お荷物から解放された杏子は、オクタヴィアの車輪攻撃を警戒して両手の八本の槍を一斉に伸ばした。仕込み槍だからこそ出来る荒業を披露しようとしていたのだ。
 オクタヴィアは演奏の邪魔をする杏子を敵として認識すると、左手の剣を振り上げておびただしい量の車輪を召喚し、杏子の頭上に叩き落とした。杏子は待ってましたとばかりに不敵に笑うと、多節棍状の槍をうねらせた。
 容赦なく降り注ぐ車輪の穴を通るようにして蠢く槍は、次から次へと車輪の穴を潜り抜けた。そうして数秒と経たないうちに召喚されたすべての車輪の穴に槍を通した杏子は、雄叫びを上げながら全ての槍を車輪ごとオクタヴィア目掛けて投げつけた。
 だが、投擲された槍に正確さなど存在せず、オクタヴィアが手にしていた剣に命中し刀身を砕いた一本と使い魔たちの上に落下した一本を除いて明後日の方向へ飛んで行った。
 丸腰になった杏子はすぐさま新たな槍を八本召喚して手にすると、防御結界の中でまどかが叫び始めた。
「さやかちゃん!私だよ、まどかだよ!聞こえる!?私の声、わかる!?」
 剣と使い魔を失ったオクタヴィアは激昂し、左手をかざして第一波よりも増量した車輪を召喚すると、今度は杏子を前後左右から襲うようにして疾走させた。まどかの声に耳を傾ける気配は全くなかった。それでもまどかは叫んだ。そうすることで親友が救われるなら、さやかが元に戻るなら。
「さやかちゃんやめて!お願い、思い出して!こんなことさやかちゃんだって嫌でしょ!さやかちゃん、正義の味方になるって言ってたよね!?お願い、元に戻って!」
「ダーッ!いい加減マブダチの話も聞いてやれよ、こんのバカ野郎!!音楽ばっか聴いてても、何も変わりゃしねぇ!」
 杏子は苛立ちながら槍を振り回すと、迫りくる車輪を伸びきった槍で無秩序に吹き飛ばす。ほとんどの車輪はこれで弾けたが、弾ききれなかった分の車輪が杏子を襲う。しかし杏子は全く痛がる素振りを見せず、止まることなく槍を振り回し続けた。
 杏子は前もって自身の痛覚を遮断し、なおかつ幻覚の魔法を上書きすることでダメージの一切を無視して戦えるようにしていた。彼女の覚悟は、並大抵のものではなかったのだ。
 何故ここまで戦うのか。何故そうまでして赤の他人を助けようとするのか。それは杏子が自身にかけた魔法のせいだった。
 彼女の父親の正義を信じ、貫き、そしてみんなに理解してもらうべく、杏子は戦い続けてきた。今もそれは変わらない。ただただ自分の正義のために戦っていた。自身の正義を信じるなら、貫くなら、さやかを助けなければならないと。
 杏子が得物を手にとって戦う理由はそれ以上でもそれ以下でもなかった。どこまで自分のために魔法を使う杏子らしい理由である。
 生き物と錯覚するような動きを見せる槍の隙間をくぐるようにして突っ込んできた車輪が、杏子の身体にクリーンヒットし、彼女の身体を吹き飛ばした。
 にも関わらず、槍の先端を地面に突き刺して伸縮させて体勢を直す杏子。受け続けた攻撃のせいで出来た傷口から出血しているのも構わず、槍をしならせ車輪を弾き続ける。
「やめて、もうやめて!さやかちゃん、私たちに気づいてよ!」
 確実に傷を増やしながら戦い続ける杏子の姿が、ほむらの姿と重なって見えたまどかは、届くはずのない言葉を叫んだ。過去に囚われ他者をひたすら祟るだけの存在になってしまったさやかに、オクタヴィアにそんなものなど通じなかった。
 攻撃の手を緩めることなく、車輪で杏子を打ちのめすオクタヴィア。ダメージの回復に費やすべき魔力さえ攻撃に注いでいた杏子は、とうとう槍を操る手を止めてしまった。オクタヴィアがここぞとばかりに車輪をぶつけると、まどかを守っていた防御結界が消滅してしまった。
 遮断していたはずの痛覚が復活し、幻覚の魔法も解けてしまった杏子にこれまで無視してきた激痛が襲いかかった。明らかに致死量の血を吐き出すが、それでも杏子は立ち上がった。
 防御結界を再構築しようと槍を握り直した杏子の背後で、まどかがこれまでとは何かが違う、それこそ違和感を覚えるような説得をオクタヴィアに向けて始めた。
「いつかのお返しかな?そういえばさやかちゃん、私のことも殺そうとしたよね?怒ってるよね?何もかも許せないよね?わかるよ……これで気が済んだら目を覚まして」
 杏子は耳を疑った。この喋り方はまどかの喋り方ではない。昨夜、さやかや杏子を襲ったときのまどかの喋り方だ。
「まあ未来永劫そんなことはないけどね」
「まさか……そんな、嘘だろ!?」
 今まで自分が守っていたのは、ごく普通の中学生ではなく、狡猾な魔法少女だった。杏子は理解したくなかったし、理解する気も起きなかった。
「私たちを守りたい、っていうのは嘘なんでしょ?ホントは恭介くんのことばっかり考えてた。違うかな?そんな馬鹿馬鹿しい願いごとで手に入れた力で誰かを守ろうだなんて調子のいいこと言っちゃうから」
 まどかの説得は説得ではなくなっていた。助ける気など微塵も感じさせないような、馬鹿にするだけの言葉に。
「お願いです神様、さやかちゃんはあんな人生だったの。せめて一度ぐらい、幸せな夢を見させてあげて下さい。……どうせ、さやかちゃんなんかじゃ悪夢しか見れないんだろうけどね。ウェヒヒヒ」
「おい!!いい加減に……」
「今度こそ引導を渡してあげるね」
 一瞬にしてほむらの魔法少女としての装束を身に纏ったまどかは、コンサートホールの四隅にいつの間にか出現した起爆装置を作動させ、床を爆破した。
 足場を失った杏子やオクタヴィアはもちろん、床を吹き飛ばした張本人であるまどかも自由落下を始めた。

 コンサートホールの床下には、何故かこれまたコンサートホールが存在した。だが、最初のコンサートホールとはどこか様子が違っていた。
 赤かった観客席は青くなり、オーケストラ風の使い魔達の代わりにヴァイオリニストの少年風の使い魔がそこにはいた。しかし使い魔は演奏することなくその場に立っているだけであった。
 不可思議な使い魔を見たまどかはバックラーからRPG-7を取り出し、容赦なく使い魔に向けて発射した。微動だにしない使い魔は弾頭の爆風に巻き込まれて消え失せた。
 その光景を目にしたオクタヴィアは一層怒り狂い、車輪を新たに召喚してまどかを襲うが、RPG-7を投棄してデザートイーグルに持ち替えたまどかに悉く撃ち落とされてしまう。
 オクタヴィアの攻撃を悠々と防いだまどかに、杏子が詰め寄った。
「てめー……、騙しやがったな!!」
「騙すも何も、私はまどかの傍にいたもの。それに今までのまどかの言葉に私の干渉は一切介入していないわ。まどかはやっぱり誰にでも優しい……」
 うっとりとした表情を浮かべるまどかは、ほむらの言葉を代弁した。その姿を見て杏子はやっと理解した。今のまどかは紛れもなくほむらなのだと。
「美しい過去、眩しい過去、戻りたい過去、ただただ過去ばかりを見つめて現実や未来から目を背けた美樹さやかでさえ救おうと危険を冒した。無駄だとわかっていても、どうしても助けようとした。どうしようもないくらい愚かな行いだけれど、まどかは優しいから仕方ないわ。でも、今の美樹さやかは立派な魔女。希望の残りカスでしかない存在のためにまどかを傷つけるわけにはいかない」
 まどかを握り潰そうと右手を伸ばしていたオクタヴィアだったが、何の前触れもなく右前腕が爆発を起こして千切れてしまった。同時にコンサートホールに火薬の臭いが満ちる。
「さやかっ!?」
「貴女はいつもそうやって美樹さやかのために命を懸けて戦い、命を落としてきた。それでも貴女が魔女になるようなことは一度もなかった。その点に関しては褒めてあげる。ただ自己中心的なときの方が貴女は強かった。美樹さやかが絡むと途端に弱くなるのはいただけないわね」
「何なんだよ、あたしゃ一度も死んじゃいねぇ!!」
 右腕をC4爆弾で爆破されて悶えるオクタヴィアを背後に、まどかはほむらに関するネタバレを始めた。
「戦士としての貴女は尊敬に値するわ。だから貴女には私の秘密を教えてあげる。私の本当の願いは『まどかとの出会いをやり直し、まどかを守れる自分になりたい』、よ。おかげで私はたった一人で同じ時間を何度も何度も何度も何度も繰り返してきた。そうして、貴女と出会う度に貴女の死を見てきた」
「あたしが……!?」
「そして今の私は一番の願いである『まどかを守れる私』になった。邪魔な肉体から離れて、まどかの傍から彼女を守れるようになった。これはとっても嬉しいわ」
「何言ってんだよ……相棒にだって心配してくれる奴は居るんだよ!?なんでそれがわからねぇ!?」
 杏子の言葉は、まどかの身体を操っていたほむらの逆鱗に触れた。それこそ、取り乱してしまうほど途轍もなく敏感な箇所に。
「わかるわけないじゃない!!あの身体は欠陥だらけなのよ!?心臓病も治らず、その上『このまま死んだら可哀想だから』と退院させられて友達も出来ずドジを踏んで恥をかいて、そんな残念な私を誰も心配しようとしなかった!親でさえ私を見知らぬ土地に追いやってそれっきり!恥をさらし続けて汚名返上の機会さえ与えられないまま情けなく死ぬ未来しかなかった私に!!……でも、まどかはそんな私に希望をくれた。未来も、奇跡も、生きる意味も!!どうせ一年も生きられない、それこそ虫にも劣るような貧弱な命なら、まどかのために捧げようと思った」
 今度は左手でまどかを掴もうとしたオクタヴィアだが、またしてもC4爆弾で腕を爆破されてしまった。
 左手首を失ったオクタヴィアの呻きは無視され、ほむらの告白は続いた。
「……あんな死体同然の身体なんか邪魔なだけ。こうしてまどかと一緒にいれば、いつでもどこでもまどかを守れるし、要らなくなったらまどかに殺してもらえる。最高に素敵で幸せとは思わないかしら?捧げた命は全てまどかのために費やされるの」
「それがてめーの、本当の正義か」
「正義は時として悪になる。それでも構わない。だってまどかのためだもの。私は悪にだって染まれる」
 杏子とまどかの間に、不穏な空気が流れた。オクタヴィアの悲鳴などなかったかのような、沈黙がそこに現れた。
 ほむらの意志の強さの正体は、壊れた心が作り上げたものだったのだ。杏子は複雑な気分になりながらも、まどかの目の奥にあるほむらの意識を見つめた。
 途端、空席だったはずのコンサートホールの座席が観客で満席になった。そう、時限爆弾という名の観客で。
 周囲を見渡し目を丸くする杏子に、まどかは淡々と事実を話した。
「私の魔法は時間操作。こうやって一瞬で爆弾を設置するときに使うと便利だわ」
「……さやかを、まどかの嬢ちゃんの親友を、殺す気なのか……?」
「美樹さやかは既に死んだ。なぜそのことを認めようとしない?そこに居るのはかつて美樹さやかだった者の残りカスよ」
 本性を現したほむらの行動は変わらなかった。何であれ障害たりうるなら徹底的に排除するというスタンスの下、オクタヴィアを結界ごと爆破しようとしていた。自分の相棒はこんなにも頭のおかしい奴じゃなかったはずなのに。杏子は悔しそうに歯を食いしばった。もはやほむらに対する怒りは霧散していた。
「なぁ相棒……どうしてそんなにぶっ壊れちまったんだよ……」
「私は壊れてなんかいない。身体以外は健全よ」
 身も心も壊れた少女は、彼女の全てを支えるまどかの口を借りて自らの健全さを主張した。
 だが、杏子の憐れむような目を見たまどかは説得を諦めた。これ以上何か言ったところで改善される見込みはないと判断すると、観客席を占領した爆弾について話し始めた。
「あの時限爆弾は残り五分で爆発する。このまま残れば貴女も魔女共々消えてなくなるでしょうね」
 残された時間が五分であると知らされた杏子は、いやみったらしい笑みを見せた。五分あればどうにかできる自信が、杏子にはあったのだ。
「五分か……充分だ、アイツにあたしの想いは伝わる」
「残念だわ。出来ることなら貴女を殺してしまうようなことは避けたかったのだけれど、仕方ないわ。さようなら、杏子。貴女は私の知りうる限りでは最強の戦士だった」
 さやかのために命を懸けるという意志を曲げなかった杏子を見限ると、まどかは幽霊のように姿を消してしまった。
 手にしていた槍を投げ捨て、オクタヴィアに向き直る杏子は最後の手段に出た。
「……おい、さやか。聞こえるか?てめーはあの豚野郎に本当の願いごとを言わなかったから、そんな姿になっちまったんだろ?てめーの本当の願い、あたしにはわかる。あたしならわかる。それを叶えられるのも、あたしだけだ」
 杏子は髪を結んでいたリボンを解くと、彼女の父親の形見であるペンダントがこぼれ落ちた。髪飾りにしていたのだろう。
 胸に着けられたソウルジェムをむしり取ってペンダントに取り付けると、杏子は手を組んで祈りを捧げた。
「てめーの本当の願いは……“LoVE Me Do”、つまり『愛して欲しかった』……そうだろ?だからあたしが叶えてやる。これからは、あたしはさやかのモンだ。身も心もぜーんぶね……だから、一緒に居てやるよ。さやか」
 本当の願いかどうかなんて、杏子に確かめる手段はなかった。推測の域を出ないようなアバウトな読みでしかなかったが、杏子はこれが正しいと信じていた。信じることを自分自身に強いている杏子だからこそ出来る一手だった。
「それでもまだ足りないって言うなら、いくらでもてめーに捧げてやる!満足するまでな!さあ、受け取りな!あたしの、誓いのキスを!」
 組んでいた手を解き、ソウルジェムに口付けした杏子は、ペンダントを握り込んだ。
 地面を蹴り、オクタヴィアの眼前にまで肉薄した杏子は全魔力を総動員し、拳に込めた想いをぶつけた。
「ソォォォォォウルジェム、マァグナァァァァァァァムッ!!」
 刹那、オクタヴィアの顔に亀裂が走った。それを追う形で甲冑にひびが入る。
 そして――
「……やった、さやかのソウルジェムだ!あたしの想いが通じた、あたしの話を聞いてくれた、あたしの願いは叶った!」
砕け散ったオクタヴィアから、澄んだ青の宝石が零れ落ちた。杏子はそれを拾うと、無邪気な笑みを見せて喜んだ。
「本番は元に戻ってからな、さやか」
 愛と勇気が最後に勝つストーリーの主人公は、宝石にキスをした。



 まどかは呼吸を乱しながら、工事現場の足場の上で座り込んでいた。
 これはほむらのソウルジェムに対する明らかなまどかの拒絶反応である、とほむらは考察していた。変身が上書きされるような事態が起きた時点でまさかとは思っていたが、まどかが杏子に誘拐される際に身体を操れなかったのだ。魔法少女としての素質はほむらが紡いできた膨大な因果律のせいでとてつもないものになっていることは知っていたが、まさか他人のソウルジェムで本来の姿に変身できるほどだとは思いもしなかった。
 文字通り宇宙を左右するような存在になってしまったまどかを素直に喜べないほむら。
 そこへ、杏子が誇らしげに歩み寄ってきた。
「見てくれよ!ほら、さやかのソウルジェムだぜ!」
 辛うじてまどかを操っていたほむらは動揺した。これまで魔女を元に戻す手段など存在し得なかったはずなのに、杏子の手には魔女化したはずのさやかのソウルジェムがあった。
「あぁ……あああぁぁ……」
「おい、どうした?嬉しくねーのか?」
 まどかの口をうまく動かせなくなったほむらは、金切り声を上げながら足場から飛び降りた。



 久しぶりに我が家に帰宅したほむらは、泣く泣くまどかへの憑依を解くことにした。このままではお互いに不利益なことばかり起きてしまうだろうという判断もあったが、それ以上に大きかったのが自信の喪失であった。
 まどかが意図的ではないとはいえ自分を拒絶したこと、二度も作戦を失敗させてしまったこと、そして杏子に奇跡を引き起こされてしまったこと。諸々の要因が絡み合い、ほむらはそれらを処理できなくなっていた。今更になって杏子に『ぶっ壊れた』と言われてしまった理由を理解した。今のほむらはとにかく混乱していた。
 ほむらは自室に安置されていた本来の身体を見つけると、その手にソウルジェムを握らせた。それまで死体でしかなかったほむらの身体に、主の意識が帰ってきた。同時にほむらは身体中が軋むような違和感を覚えた。結構な時間を他人の身体で過ごしていたのだ、多少ギクシャクするのも無理はなかった。
 そして操り主を一時的に失ったまどかの身体が、ほむらにもたれかかった。
 五感が若干霞んでいたほむらだが、それでもまどかの温もりや匂いを感じようと、その姿を目に焼き付けようとした。ぎこちなく腕を動かしながら、まどかの髪を梳こうとした。
 が、それらを中止してまどかに思い切り抱きついた。
「うぅっ……ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!ごめん、なさい……弱くて、卑怯で、わがままな子で……ごめんなさ……ぃぃぃぃぃ……っ!!」
 錯乱しかけていたほむらは、結局願いを叶えられなかった自分に対する怒りとまどかを騙していたっことへの罪悪感、更には自身の行動への後悔などが混ざったものを吐き出した。自分で今何を言っているのか理解しないまま、泣きじゃくって、ごめんなさいと繰り返した。
「……う、うぅぅぅ……っ!!」
「ほむら、ちゃん?」
「……!!」
 いつの間にかまどかは目を覚ましていた。自分に抱きつき、涙で顔をくしゃくしゃにしながら謝り続けていたほむらを見て驚いた。
「ど、どうしたのほむらちゃん……って、そうじゃないよ!ほむらちゃん、生きてたんだね!」
「え、えぇ……」
「良かったー……」
 まどかは安心したのか、ほっと胸を撫で下ろした。こんな自分のために一喜一憂してくれるまどかに、ほむらは感謝してもしきれなかった。
「まどか」
「うん?」
「もう少し、このままでいてもいいかしら」
「今日のほむらちゃんは何だかあまえんぼさんだね」
 よしよし、とまどかに頭を撫でられるほむらは幸せそうな顔をしていた。



 ほむらがまどかへの依存を更に強めていたのと時を同じくして、杏子は無事に奪回したソウルジェムをあるべき場所へと戻していた。
「お、起きた起きた」
「……助けてくれたのは嬉しいけど、ここどこ」
「あたしの寝床」
「天井裏が?」
「相棒ん家のな」
 杏子はさやかの身体をほむら宅の天井裏に安置していた。折角生き返ったのに、何なんだろうこの微妙な感じ。そんな気持ちがさやかの思考を占めていた。
 そう言えば、とさやかは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ねぇねぇ杏子、私の願い叶えてくれるってホント?」
「ななななななんでそんなこと覚えてんだよ!?」
「いや、だってねぇ?あんな恥ずかしい告白、普通はしないよー?」
「さやかを助けるのに必死だったんだよ!今更んなこと言われても困る!」
 さやかはわざとらしく杏子から顔を背けた。
「でも、嬉しかった……」
「お、おぅ……」
 照れ臭そうな杏子の声を聞いて必死に笑いを堪えるさやか。あんなハチャメチャな戦い方するくせに、意外と可愛いところがあるじゃない、と。
 改めて杏子に向き直ると、さやかはあることを要求した。
「それで、誓いのキスの本番はまだ?」
「はぁっ!?」
「あのときは誓いのキスとか言ったくせに殴ったし……」
「甲冑が邪魔だったんだよ」
「邪魔な甲冑ないんだけど」
 キスを催促するさやかに業を煮やした杏子は、目を瞑ったままさやかを押し倒して強引に唇を奪った。唇を奪ったとは言ったが、そうは言ってもほとんど押し付けるだけの乱雑なもので、すぐに離してしまった。
 目を開いた杏子が見たのは、明らかに不満そうな表情のさやかだった。
「何、今の?前戯じゃないんだから」
「うるせー!!覚悟が足りねーんだよ!」
「……杏子のヘタレ」

 いじられすぎたのか、すっかり拗ねてしまった杏子は、さやかに背中を向けて顔を見ようとしなかった。
「杏子ー?」
「……ふんっ」
「杏子ってばー」
 それどころかまともに返事を返さなくなってしまった。
 流石に調子に乗っていじめすぎたかと思ったさやかは、とりあえずは謝ることにした。
「ごめんね、あんなこと言われてつい、舞い上がっちゃったっていうか……」
「……ほんとか?」
「嬉しかったんだから」
 杏子はさやかの方に向き直り、優しく語り始めた。
「あたしさ、これでも十五年前まで姉ちゃんやってたんだよ」
「そんなこと言ってたわね」
「でも、姉ちゃんらしいことはあんまり出来なかった。それでも後悔なんざしちまうようなことをしたつもりはない」
 さやかの頭に手を乗せてくしゃくしゃと撫で回しながら杏子は続けた。
「それに、これからやることは妹への罪滅ぼしのためにやるんじゃねぇ。あたしはただやるべきことをやる。姉貴が妹を愛するように、あたしはさやかを愛さなきゃなんねぇ。不満かもしれねーが、あたしなりに全力で愛してやる」
「杏子……」
「だからもう独りぼっちじゃないし、寂しくないもんな。さやか」
「……うん!」
 杏子とさやかはお互いの顔を見つめながら笑いあった。



 管理職や営業職がキツいのは宇宙共通なようで、おでん屋の屋台で熱燗を呷り、熱々の大根と格闘する巨漢と小動物が居た。ノリべえとキュゥべえである。
 おでん屋の主人はこの奇天烈な地球外生命体に驚きを見せなかった。注文を寄越せば人だろうがそうでなかろうがみんな客なのだそうだ。
「かァ~!地球人はこんなうめェ液体飲んでんたァ、羨ましいでねェの!なァ、キュゥべえよ?」
「味の染みた大根が美味しいです、ノリべえ様」
「俺の話聞いてたか?」
「熱々でそれどころじゃないです」
 端から見れば異様な光景だが、実際は上司と部下が酒を飲んでいるだけなのだ。
 ふと、キュゥべえの右前脚に違和感を感じたノリべえ。本来あるべき脚の代わりに何かの棒が、そこにはあった。
「オイ、どうした?その脚はよ」
「罪には罰、ですよ」
 無理のあるごまかしをしたキュゥべえに、ノリべえはめんどくさそうに説教した。
「おめェがどんな罪を犯したんだか知らねェがよ、そんなんで一々罰食らってたらキリがねェだろうが。宇宙のためとはいえ、俺たちは命を収穫してんだ。それが罪なら今頃宇宙は滅んでらァ」
「でも、これがボクへの戒めなんです」
「おめェ、ホントに地球人みたいになってんな……そのうち契約できるようになるんでねェの?」
「そうなったら、ボクが宇宙を救ってみせます」
「役立たずのくせにナマ言いやがって……。あ、おっちゃん!がんもくれ!あと餅巾着!」
 おでん屋の主人からがんもと餅巾着を受け取ると、キュゥべえに呆れながらノリべえはそれらを頬張った。
 


 ボロ切れのようなフードつきのマントを被った魔法少女が、オクタヴィア戦の行われた工事現場に現れた。華やかであったはずの衣装は薄汚れ、ところどころ解れたり千切れていたりと大変お粗末な有り様である。
 それだけに留まらず、爛れて黒ずみ指が三本しかない化け物のような右腕が、奇妙な存在感を放っていた。
 風にあおられたフードの隙間から、彼女の素顔が見えた。端正な顔立ちながらも、右目周辺が腕同様に爛れ、瞳は濁っていた。
 そんな彼女は、ぽつりと呟いた。
「暁美ほむら、今度は貴女が絶望する番……」
 煌びやかな装飾が施されたカノン砲を召喚すると、空目掛けて砲撃を行った。

 彼女の金糸がなびいた。



つづく?



~最後に愛と勇気が勝つあとがき~

 うわーシリアスがウリのほむらーど・グラスでとうとう鬱回避しちゃったYO!なんかこれ色々とダミだ自分orz

 えーと、今回は第七話から登場した、インキュベーターたちのリーダーであるノリべえ/フレイムインキュベーターについての設定を紹介します。

・名称:フレイムインキュベーター
・自称:ノリべえ
・役職:惑星インキュベーター代表/全宇宙熱力学学会名誉会員
・能力:知的生命体の肉体と魂を分割する能力。感情が相転移した際に生じるエネルギーを熱エネルギーとして回収する程度の能力。魔法少女の衣装、武器、固有能力ならびに魔女のデザインを決定する能力。
・契約:通常のインキュベーターとは異なり、願いを三つ叶える代わりに分割した魂を更に三分割してソウルジェムを三個生成する。これによって三つに分割されたソウルジェムは通常の三倍の速度で穢れが溜まる。また、ソウルジェム一個につき魔女が一体出現するため、獲得できる感情相転移エネルギーの総量は実質三倍となる。もちろん、彼と契約した魔法少女のソウルジェムがグリーフシードに変化して魔女化した場合でも、ソウルジェムがまだ残っているのであれば魔法少女が死んでしまうようなことはない。
・性格:科学者のくせに乱暴者であり、パワーハラスメントを当たり前のように行う。だが、根は真面目であり、ほむらの宇宙の生命を否定するような発言に対して反論したり、感情相転移エネルギーの新たな獲得源を求めて研究をしていたりする。
・容姿:本人曰く『プリティーヘッド』と『マッシヴボデー』が自慢だそうだが、実際は黒と蛍光オレンジメインの毒々しいカラーリングに、インキュベーターの頭部と筋骨隆々な胴体が激しくミスマッチなデザインの、身長3メートルのただの巨漢。
・必殺技:口から吐き出す火の球『コントラクトフレイム(契約の炎)』、耳から生えたよくわからないモノを取り外して殴りつける『コントラクトストライク(契約の衝撃)』。

 あと、杏子ちゃんが使った必殺技「ソウルジェムマグナム」の元ネタはもちろん、あのソウルジェム自爆だったりします。あのシーン見る度にマジ泣きしていたのでこれだけは絶対改変したいナーと思ってましたハイ。だってさやかちゃんには幸せになって欲しいんだもん!!
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コメント
コメント
遂にさやかちゃんに救いが!これが…杏さやなのか…!!
色々な画像を見たせいで、杏子ちゃんも非常にうぶなイメージがありますww

同じ一ヶ月間を二万千百二十年…とんでもないなほむらちゃん…。まどか依存が凄まじい…!!
魔女の結界内部のデザインは何故かとても好きな俺です。このオクタヴィアの結界も、安全だったら入ってみたいぐらいに良いですね(´∀`)

マミさんキター!!(゜∀゜) しかし右手は何があったんだ…。
なんだかこのインキュベーター達は微笑ましいww
2011/07/27 (水) 06:23:50 | URL | クチナシ #-[ 編集 ]
Re:
>>クチナシさん
杏さやでございます!(キリィ
杏子ちゃん公式で防御苦手な設定があるんで、個人的には攻めに強く受けに弱いイメージがありますw

帰ってきたウルトラマンが17000歳なので、ほむらちゃんの実年齢はM78星雲の住人たちよりry
だからこそのまどか依存なんですけどね。

オクタヴィアの結界はさやかの心情というかなんというかを反映したものだと思ってるので、侵入されるの嫌がりそうですw

マミさんの顔と右手については……、そのうち明らかになります☆

宇宙救うのも大変なんですぜ……
2011/07/27 (水) 21:37:06 | URL | 影月 #-[ 編集 ]
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