カゲツキくんは作り出した何かを全力で投下していきました。
二次創作系小説を書き散らかしつつ、個人的に興味深いホビー(TF系多し)について騒ぎ立てるブログだったのですが、最近では自分で何やってるのかよくわかってません。そんなカンジのブログです。
ほむらーど・グラス スピンオフ Shattered Mami's heart
なんだか久しぶりにSSうpする気がするぞ!(

えーと、今回の“Shattered Mami's heart”は、拙作「ほむらーど・グラス」シリーズ第三話で退場し、第八話にて帰還を果たしたマミさんの身に何が起きたのかを描いたスピンオフでございます。
スピンオフというより、内容補完作品ですね。


↓ほむらーど・グラス本編へのリンクです
第一話
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話
第七話
第八話



諸注意
・マミさんが最初からボロボロです
・結構エグイ描写多めです
・オリジナルキャラのフレイムインキュベーター/ノリべえが物語に若干関わってきます
・ほむらさんに乗っ取られたまどかさんがちらっと出てきます
・キャラ崩壊がものっそい悲惨です
・時系列的には『ほむらーど・グラス』本編四話~七話冒頭に相当します



以上の点を御理解いただいた上でお読み頂ければ幸いです。











 ここは見滝原から数キロほど離れた町にある一軒家。小学校低学年くらいの少女が、目の前で魔女に親を喰い殺される光景を目の当たりにしていた。すっかり腰が抜けてしまった少女は、自分も喰われてしまうのかと怯え切っていた。
 そこへ、ボロ切れをマントのように被っていた魔法少女が現れた。かつての煌びやかさはどこへやら、解れていたり薄汚れていたりしてボロボロの装束を身にしていた。金髪は傷み、右腕は肘から下を欠損、右目は周りの皮膚や肉や骨ごと抉り取られて内部が露出しているその外見は、ゾンビ以外の何者でもなかった。
 彼女の名前は巴マミ。執着の魔女・シャルロッテとの戦いで絶望を味わった彼女は暁美ほむらから逃げるようにして見滝原を離れ、町を転々としながら魔女狩りをしていた。孤独に怯える自分の弱さを殺すために、何体も何十体も狩ってきた。そうしていくうちにマミの心はあまり動かなくなり、身体の損傷を治さなくなった。関心も感動も見せないまま戦うだけのマミは戦闘マシーンに成り下がった。文字通り、マミはほむらに心を殺されてしまった。
 何もかも悟ったかのような表情のマミは、魔女の口にカノン砲の砲口を押し込む。
「ォオオオオォォォォォ!!」
「………」
 躊躇うことなくカノン砲の引き金が引かれ、魔女の頭が粉微塵になる。ペンキのような体液を浴びながら排莢する魔法少女は、動かなくなった魔女の身体からグリーフシードを毟り取った。
 突然訪れた惨劇、喰い残し同然の両親の死体、そして絶望的状況から自分を救ったマミ……、それらを理解できずに戸惑う少女はじっとマミを見つめた。
 独りぼっちになってしまった少女の視線に気付かないままマミはその場を立ち去ろうとした。が、少女はマミの脚にしがみついて力いっぱい訴えた。
「助けてよ……!パパもママも死んじゃって、行くところなんてどこにもないの……!」
「………」
 マミは顔色一つ変えずに歩き出した。両親を失って行き場を失ったのはマミも同じはずなのだが、砕かれてしまった心では同情一つできやしなかったのだろう。
 そんなマミに、少女は必死に話しかけ続けた。いつか返事をしてくれるだろうと、助けてくれるだろうと。
「わたし、ゆまっていうの。おねえちゃんの名前は?」
「………」
 それまでは反応を示さなかったマミだったが、少女がゆまと名乗ると、ゆまの方に顔を向けた。原型を留めている左目がじっとゆまを見つめるが、それだけ。マミは口を開こうとしなかった。
「ねえ、わたしはおねえちゃんのこと、なんて呼べばいいの?」
「………」
「もしかして、名前がないの?」
「ま……」
「ま?」
「ま……み、とも、え ま……み」
「ともえ、まみ?」
 どうやらマミは口を開こうとしなかったわけではなく、うまく動かせなかったようだ。やっとのことで自分の名前をたどたどしく紡ぐと、ゆまの顔に笑顔が戻った。
「じゃあ、マミって呼ぶね!おねえちゃん!」
「………」
 頷きもせずに前を向くと、マミは歩き出した。ゆまはそんな彼女の後について行った。



 良くも悪くも、今のマミは否が応にも目立ってしまう。
 そういう意味では、崩壊した顔面の右半分や傷口の癒えていない右腕を覆ってくれるマントは便利だった。いささかお粗末なマントではあったが。
 元々、端正な顔つきと年不相応なナイスバディのせいで目立ちまくっていたところへ豪快な損傷が加わったのだ。こうなってしまうのも無理はない。
 そして今度はゆまという孤児同然の少女が勝手についてきてしまった。マントを被った美人の子連れ狼とくれば、道行く人々の視線を奪うのも容易かった。

 いつもならどこかの公園で一夜を過ごすマミだったが、流石にゆまを連れている今はそういうわけにもいかなかった。以前のマミならまだしも、今のマミは他人を守りながら戦うのには不向きな得物を使っている。もし公園に魔女が現れでもしたら、間違いなくゆまが足を引っ張ってしまうだろう。そのせいで死んでしまう、という事態は是が非でも回避したかった。マミはほむらへの恨みを晴らすまで何があっても死ぬつもりなどなかったから。
 マミはしぶしぶ、この町のとあるホテルで使われていない一室を探し出すと、そこを寝床にした。
「わぁい!ふっかふか!」
 ホテルでの外泊は初めてなのだろう、ゆまがベッドの上で飛び跳ねていた。放っておけば寝てしまうだろうと判断したマミは、マントを脱ぎ捨てるとシャワールームへ向かった。

「………」
 鏡に映る自分は醜かった。動き回る死体のような顔の右半分と、何もかも諦めてしまった表情の左半分。未だに血がにじみ出す右腕の切断面。そして身体中に残る生傷。残酷なまでに何もかも映し出してしまう鏡を殴り割ると、マミは蛇口をひねった。
 今でも、マミの耳にはほむらの言葉が残っていて、時折リフレインしてくる。こうしてシャワーを浴びていても、水滴がマミの素肌を叩く音に混じって聞こえてくるのだ。
『まどかが悲しまないように戦って死んでくれればいい』
 姿は見えずとも、ほむらは確実にマミの精神を蝕んでいた。

 予想に反して、ゆまは起きていた。ベッドの上でちょこんと座っていたゆまは、マミにこんなことを聞いた。
「マミ、なんでそんなにボロボロなの?痛くないの、辛くないの?」
「………」
「それなのに、パパとママを殺した怪物みたいなのと、なんで戦うの?」
「………」
 マミはゆまをじっと見るだけで答えようとしなかった。話せば長くなるし、話す必要もなかった。それに、ほむらを話題にするのを心底嫌がっていた。
 腹を割ろうとしないマミに頬を膨らませて不満を露わにするゆま。それでもマミの口は動かなかった。
 マミの気を引こうと、ゆまは喋り続ける。
「マミは、正義の味方?」
「……わ、わから、」
「あ、やっと喋ってくれた!」
「わからな、……らない」
 ゆまの前でマミが言葉を口にしたのはこれで二度目。ただ、単語や固有名詞を言うだけで精一杯なマミとの会話は厳しかった。それでも、ゆまはマミが自分の言葉に答えてくれるだけで嬉しかった。
「じゃあ、私もマミみたいになれる?」
「………」
 部屋に偶然残されていたメモ用紙とボールペンを見つけたマミは、それを手に取った。筆談するつもりなのだろう、メモ用紙に左手で何かを書きこんでいる。書き終えると、ゆまに文面を見せた。
『あなたのおとうさんやおかあさんをおそったかいぶつは、まじょとよばれているわ。そして、そんなまじょをかるのがわたしたち、まほうしょうじょ。ゆまちゃんもまほうしょうじょになれないわけじゃないけど、なってほしくないし、なろうとおもわないで。わたしのようになるわよ?』
 ボールペンのペン先を自身の顔に向けながら、震える文字が書き込まれたメモ用紙を読ませるマミ。
わたしのようになるわよ、の一文を強調したはずだが、ゆまはその意図に気付かなかった。
「ねぇ、どうすればわたしも魔法少女になれるのかな?わたし、魔法少女になるためだったらなんでも……!」
『さっきのことば、よんでくれた?まほうしょうじょになると、あぶないめにあうわ。あなたのおとうさんやおかあさんみたいにたべられちゃうかもしれないわ』
「だって、わたしもうひとりになっちゃったんだもん……」
 えぐえぐと泣き出してしまうゆま。この有り様では筆談なんて出来ないだろうと思ったマミはゆまを泣き止ませようともせずにそのまま寝てしまった。



 公園のベンチやダンボールなどを寝床にしてきたマミは久しぶりに快適な寝起きを迎えた。相変わらず悪夢にうなされはしたが、ベッドで寝ていただけあって多少はマシであった。
 さて、マミが寝る直前に泣き出していたゆまはというと、マミの胸に顔をうずめてぐっすりと眠っていた。泣き疲れて眠ってしまったことなど簡単に予想できる。
 マミはゆまを引き剥がして起き上がり、顔を洗って身支度を整えマントを被ると、一人で魔女狩りに向かった。二度も同じ過ちを繰り返すわけにはいかないのだ。

 日常生活を送る上では、腕がないと非常に不自由することをマミはこの数週間で理解した。その割に、魔女狩りにはあまり影響を及ぼさなかったことも。
 魔女の作り出した結界の中に飛び込んだマミは、あたかも自身の右腕から砲身が生えているかのように錯覚してしまう外観のカノン砲を召喚し、使い魔たちを砲撃で蹴散らした。
 マミの侵入と襲撃を察知した魔女だったが、マミが左手から飛ばしたリボンに拘束されてしまい抵抗する間もなく猛爆された。
 これまでのマミはマスケット銃を得物としてきたのだが、シャルロッテ戦での敗北以降はその戦闘スタイルを変えるべく得物を新しくした。そんなマミのマスケット銃に代わる新たな得物が、カノン砲であったのだ。結果、マスケット銃より大型化してしまい接近戦が更に不得手になってしまったが、それを補って余るほどの火力を獲得した。それこそ利き手を失っても満足に立ち回れる程度には。
 猛爆され抵抗できなくなった魔女を、大きく振りかぶってカノン砲の砲口で殴りつけるマミ。そしてそのままカノン砲の砲弾で吹き飛ばそうと――
「きゃあああああ!?」
「………!!」
したのだが、ゆまの悲鳴を聞きつけたマミは砲口の向きを変えた。狙いはゆまに襲いかかる使い魔。照準を合わせて、発射。砲弾の直撃を受けた使い魔が細かい肉片に姿を変えたことを確認すると、魔女に向き直り零距離砲撃をお見舞いした。

 どうやってマミの後を追ったのかは定かではないが、間違いなく言えることはただ一つ。ゆまも魔女の結界に飛び込んできたということ。
 零距離砲撃を受けて全壊した魔女の残骸からグリーフシードを剥ぎ取りながらマミはそんなことを考えていた。当のゆまは使い魔の肉片で血まみれになっていた。
 実はゆまを助けるつもりなど毛頭なかったのだが、条件反射で使い魔を撃ち落としてしまった。とりあえずはゆまの顔の汚れを拭き取ろうとしたマミ、だがゆまの顔に手を触れて一瞬だけ硬直した。
「……き ず、が」
「……!?」
 魔女や使い魔に付けられたとは思えない傷――具体的に言えば煙草による火傷がゆまの顔にあった。そのことに触れられたゆまは震え出した。その様子から考えられるのは、ゆまは虐待を受けていながらも虐待を行った親を庇おうとしていること。
 マミは左目を伏せ、ゆまから手を離すとマントをなびかせながらホテルへ引き返そうとした。
「わたし」
「………」
「ほんとはパパもママも好きじゃなかった」
 マミはメモ用紙とボールペンを探したが、ホテルに置いてきたことを思い出して聞き役に徹することにした。
「パパとママはけんかばっかり。パパは家に全然いないし、ママはゆまにいじわるするの」
 典型的な児童虐待の構図がマミの頭に浮かんだ。ゆまの母親が彼女を殴り蹴り言葉で虐げ煙草の火でいたぶる光景を想像するのは容易だった。
「パパが帰ってこないって、パパがおそとに遊びにいっちゃうのはゆまがかわいくないせいだって、すごくいじわるするの」
 だからといってマミが同情することはなかった。肉親に裏切られたことなどないまま肉親は死んでしまった。理解しろと言われても出来なかったし、そもそも今のマミでは理解することは不可能に等しかった。
「わたしはっ、強くなりたい!」
「………」
「マミが強いのは魔法少女だから?もしそうなら、わたしも……!」
「………」
「ねえ!友達は?学校は?ほかにも魔法少女っているんだよね?」
「………」
「こたえてよ、マミ!」
 結局、マミはゆまの質問に答えることなくその日を終えた。



 明くる日も、マミはゆまが起きないうちに魔女狩りへと赴いた。ゆまが一緒ではどうにも動き辛いので、どうにかして追い払おうとは思っていた。が、満足に言葉を発せられないマミには厳しいことであった。
 何かきつい言葉でも浴びせればいい。元々心に傷を負っているようだし、そこに触れれば勝手にどこかへ行ってしまうだろう。それが出来ない以上は、もうどうしようもない。
 いつものようにカノン砲の砲口を魔女の身体に捻じ込んで吹き飛ばすと、マミは何者かの気配の接近を察知した。
『貴女が発声障害で思い通りに喋れないことは存じています、巴マミ』
「……!?」
 テレパシーでマミにアプローチを仕掛けた少女が纏っている司祭か何かのような白い装束の胸元にはソウルジェムがその存在を主張していた。この少女は間違いなく、魔法少女だ。
『こちらがテレパシーでお話ししているのですから、お返事下さってもいいのでは?』
「………」
『……まあ、これからお話しすることをしっかりと聞いて下されば一向に構いませんが』

 その白い魔法少女の名前は美国織莉子。彼女は未来予知の魔法を使うらしく、その『恩恵』について一方的に話し出した。
「契約した私が最初に見た未来は、『見滝原にワルプルギスの夜が訪れる』というものでした。同時に、そのワルプルギスの夜を一撃の下に葬った魔法少女の姿も。魔法少女の名前は『鹿目まどか』。彼女は貴女の後輩でしょう?」
 マミは左目をわずかに見開いた。まさかほむらが執着するあの少女が、ワルプルギスの夜さえ越えてしまうような素質を持っていたとは。
 凝り固まった表情筋を動かしながら、マミは頷く。
「ただ、これが非常に厄介なことになってしまうようなのです。ワルプルギスの夜を葬った鹿目まどかはその後、ワルプルギスの夜以上の魔女へと変身してしまいます。……救済と称して全てを滅ぼす魔女に」
 織莉子は怒りに肩を震わせながら続けた。
「次に見た未来は、それらを目前にしながらただただタイムリープと言う名の敗走を繰り返す魔法少女の姿です。こちらも貴女はご存知でしょう」
「暁美、ほむ ら……!」
 これまでで一番はっきりと言葉を紡いだマミは、憎き魔法少女の名を発した。タイムリープがどうの、ということはマミには関係なかった。ただ、ほむらは何らかの形でそういった情報を手にし、それを阻止せんと暴走しているのだろうとマミは踏んだのだ。
「そうです。時の流れで回り続ける愚者、暁美ほむら。まるでワルプルギスの夜のように、魔女と化した鹿目まどかという圧倒的絶望をばら撒いている彼女を、私は排除したい」
 メシアにでもなろうとしているのだろう、このときの織莉子は自身に訪れる未来を見ずに語っていた。
 はっきり言ってマミは心配していた。この織莉子と名乗った魔法少女が、肉体を切り刻んでまで肉薄してくる魔法少女に勝てるのだろうかと。いや、勝てるはずがない。
 自身の力を過信していたところをほむらに利用されて殺されそうになった自分と、織莉子が重なって見えた。この少女もまた、あの卑劣なほむらに騙されて絶望の道を歩かされてしまうことだろう。
 だが、そうなる前に面白い話が聞けた。そしてそれにはまだまだ続きがあった。
「三度目に見えた未来は、信じ難いものでした。魔法少女の契約を結んだ鹿目まどかが、神さえも超越した概念への変身を果たし、全ての魔女を一掃し魔法少女に対して救済の道を示したのです。その姿の神々しさは、この世のものではありませんでした……。ただ、暁美ほむらはその未来を否定して回り続けました」
「………」
「折角時を駆け続ける運命から解放され、大空へと飛び立つ黒翼を与えられるというのに、それを否定する彼女の神経が理解できません」
『理解できないでしょうね。彼女は狂っているもの』
「……テレパシーで話せたんですね」
『何でもかんでも鹿目さんのことを引き合いに出して物事を強引に押し進めた暁美さんは恐ろしいわよ?殺そうとするなら気を付けるといいわ』
 マントを被り直したマミは織莉子に背を向けた。
『良い話を聞かせてくれてありがとう。でもこれで会うのは最後ね』



 織莉子の運命などマミの知ったことではなかったが、彼女がもたらした未来予知は久しぶりにマミの心を動かした。
 まどかは希望をもたらす女神で且つ絶望をばら撒く破壊神であり、ほむらは世界に絶望を導く愚者であると織莉子は言った。こんなファンタジックな話を聞かされたマミはとても嬉しかった。
 死にたくないとキュゥべえに縋って孤独になり、実は死んでいましたという事実を知らされ、挙げ句死の恐怖をまた体感させられたマミの人生は苦痛で満ちていた。そこへだ、こんなにも夢に溢れている事実が舞い込んできた。自分にもスポットライトを浴びるチャンスが訪れたのだ。憧れていた英雄として、理屈抜きにカッコいい戦うヒロインとして、みんなから注目されたいという願望がマミにはあった。ほむらに挫かれはしたが、それでもその願いはしっかりと息をしていた。
 マミは孤独に恐怖していたからこそ、あえて見滝原から離れた。離別が嫌なら出会わなければいいと人との接触を避けた。その結果がこの有り様なのだが、もう逃げも隠れもしなくていい。自分がまどかを救世主に仕立て上げれば、皆自分を注目する。孤独に怯え一人で寂しくすすり泣く日々に終わりを告げることが出来る。
 今まで見滝原へ戻ることを躊躇っていたが、マミは決心した。ほむらへのリベンジを果たすため、そして願いを叶えるため、見滝原へ帰ることを。

 ホテルに戻ったマミは、理解し難いモノを見て表情筋を軋ませた。
「見て見てー!『ノリべえ』ってでっかいおじさんにお願いしたら、わたしも魔法少女に……」
 ゆまは自慢げに手の中にあるものをマミに見せた。輝きを放つそれは、魔法少女であることの証、ソウルジェムであった。
 『ノリべえ』?契約を執り行うのはキュゥべえだけではないのか、そして何で目の前のか弱い少女はソウルジェムを獲得しているのか、何より……この強い魔力は一体何なのか。マミはひどく当惑し、眩暈を起こしてふらついた。
「マミ、だいじょうぶ!?」
「………」
 心配して近寄ってきたゆまを、左目で睨み付けるマミ。
「ひっ!?」
「………」
 ふらつきながら、ベッドに身を投げた。



 最悪の目覚めだった。頭は重く、視界もぼやけ、身体中に倦怠感が纏わりついている。日は高く昇り、必要以上に睡眠をとってしまったことをマミは自覚させられた。
 部屋には、ゆまの姿は見当たらなかった。気配も魔力も感じられない。どこへ行ったのかは知らないが、ある意味ではチャンスであった。マントを被り、傷を覆い隠したマミは見滝原へ舞い戻ることにした。やっとお荷物から解放されたのだ、早急に見滝原に向かわねば。
 ホテルから出たマミはこれまでの日々を思い返した。腕を食い千切られ、顔ごと目玉を抉り取られ、浮浪者のようにボロボロの身なりでアテもなく過ごした日々を。
 そしてこんな心配をし始めた。後輩たちは元気だろうか。今の自分の顔を見て怯えたりしないだろうか。また、笑顔を見せて自分のことを慕ってくれるだろうか。そもそも、自分は笑えるのか。試しに笑顔を作ってみようとしたが、顔は動かなかった。
 声は出ず笑顔も作れず、おぞましい見た目の魔法少女はフードを深く被った。

 だが、マミに心配事をさせる暇を魔女は与えてくれなかった。
 気がつくと、マミは魔女の形成した結界の中に引きずり込まれていたのだ。
「フギィィィィィィィ」
「………」
 有り体に言うなら、骸骨のような袋から脚が一本だけ生えた姿の魔女がそこに居た。マミはいつも通りに始末してしまおうと変身するや否や、カノン砲を三門召喚した。一門は右腕に、残り二門は両肩に装備すると、早速砲撃を始めた。
 魔女が使い魔の生産を始めるよりも速く、砲弾が魔女に襲いかかる。砲弾は容赦なく魔女の顔面に穴を穿ち、そこから体液を吐き出る。さながらカラスに突かれたゴミ袋である。
 ゴミ袋からグリーフシードが吐き出されるのを確認したマミは、役目を終えたカノン砲を投棄してグリーフシードを手に取った。
「………」
 途端にグリーフシードは砂と化してしまったが。
 マミはもう一度カノン砲を召喚すると、振り向き様に背後を攻めてきた魔女のパーツを砲撃した。
 どうやら、今度の魔女はずいぶんと頭が回るらしい。あえて一方的にやられてダミーのグリーフシードを吐き出して油断させるという申し訳程度の作戦が思いつくだけ称賛に値するだろう。
 しかし所詮は魔女、たかが知れている。ゴミ袋から中身を垂らしながら歩き回る魔女を、マミは狙い撃つ。
「オッホッホオォー、ハイボォォォォ」
「………」
 とにかく撃ち続けて、砲弾が尽きれば即座にパージして新しいカノン砲に。なかなかに頑丈な魔女は次から次へとマミに風穴を開けられても倒れる素振りを見せなかった。
 ふと足を止めた魔女は、風穴から滴る血をマミ目掛けて吐いた。
 構わず砲撃を続けるマミだったが、それが命取りだった。
「ラン、ラン、ラン、ラン」
 意志を獲得した魔女の血は、マミの左腕と両脚に絡みつき。
「……!?」
彼女の肢体を焼き切ってしまった。
 そのまま体液でマミを拘束すると、舌なめずりしながら近寄る魔女。傍から見れば万策尽きたかのように見えたが、マミにはまだカードが残されていた。
 大口を開けてマミを丸飲みした魔女は、数フレーム後に爆発を起こして上顎が吹き飛んだ。結果的に魔女の口から吐き出されたマミの、かつて右目が存在していた空洞からはマスケット銃の銃身が伸びていた。
 簡単なことであった。マミは魔女に喰われた瞬間にマスケット銃を召喚しただけなのだ。右腕からカノン砲の砲身を生やしたように、顔からマスケット銃の銃身を生やしただけ。今のマミには彼女の戦いを見てくれる後輩など居ない。見苦しい戦い方をしたところで何の不都合もなかった。
 ただ、マミは困り果てた。このままではトドメをさせない。仮にトドメをさすことが出来たとしても、バラバラになった手足を回収して元通りにするには時間がかかる。
 とりあえずは身悶える魔女を右腕のカノン砲で狙おうとした。支える手も脚もないものだから、非常に狙い辛かったがそれでも撃てないわけではなかった。
 そんなマミに、奇跡が訪れた。
「ゆまがマミを助けてあげる!」
「ゆ……ま、ちゃ……」
 ゆまの声が聞こえたかと思えば、焼き切られたはずの左腕と両脚がマミの元へ戻ってきたではないか。そして、元通りにくっついてしまった。
 マミは取り戻した左手で顔のマスケット銃を引き抜き、召喚できる最大限のサイズのカノン砲を呼び出して結界ごと魔女を吹き飛ばした。目の前に居るゴミ袋を消し炭にすることを優先したマミにとっては最早グリーフシードの回収などどうでもよかった。

「やったね、マミ!」
 満面の笑みでゆまが言う。猫耳を生やした、これぞ魔法少女であるといった具合のデザインの衣装がゆまの純真さを表していた。
「ね、わたし、マミのやくにたてたよね?わたし、マミといっしょにいられるよね?」
 マミは呆れた。独りぼっちになりたくがないために魔法を使うなんて、これではまるで自分のようではないか。
 微動だにしないマミを見て不安になったゆまはベソをかきそうになった。
「マミ……ゆまを、ひとりにしないで」
「………」
 マミはゆっくりと頷いた。そうしてゆまを抱きしめてやると、あやすように頭を撫でた。
 まさか、誰かにして欲しかったことを自分が誰かにするとは思ってもみなかった。



 強力な治癒魔法を使うゆまを心強い味方として、そして似た者として迎え入れたマミは見滝原を目指した。
 道中では何度も魔女と遭遇し、マミはその都度ゆまに助けられた。独りじゃないことは、とても素敵なことなのだとマミは改めて認識した。ゆまとの交流のおかげで、徐々にマミも笑顔を見せるようにはなってきた。口頭での会話も少しはできるように。
 だが、マミは忘れかけていた。離別の恐怖を。恐ろしいことに、それを思い出させてくれたのは彼女の後輩である鹿目まどかであった。
「あっ、マミさん!お久しぶりです、元気でしたか?」
 ここは見滝原の隣町、どうしてこんなところにまどかが居るのかをマミは理解できなかった。ゆまは珍しそうにまどかを見ていた。
 まどかは楽しげにマミにこんなことを言った。本来は楽しげに言うべきことではないのだが。
「聞いて下さい、マミさん!ほむらちゃんが死んじゃったんです!さやかちゃんが怒り狂って、八つ裂きにしちゃって!」
「………」
「ねぇマミさん、どうして喜ばないんですか?マミさんの大嫌いなほむらちゃんが死んだのに……」
 確かにマミはほむらのことが苦手であり嫌いである。しかし、ほむらの死の報せを素直に喜べなかった。自分の知っている鹿目まどかとは違う誰かと話している気分だった。
 思った通りのリアクションが見れなかったことが不満だったのか、つまらなそうにマミを一瞥したまどかは、ゆまの方を向いた。
「あ、キミは確か……ゆまちゃんだっけ?久しぶりだねー、かれこれ何十ループ前かな?また虐待されてるの?可哀想だね」
「え……な、なんでゆまのことを……!?」
 明らかに動揺したゆまに、まどかは言葉で畳み掛けた。サディスティックに責め立てるまどかの笑顔は黒かった。
「だからって私は許してあげないからね。だってゆまちゃんが余計なこと言ってほむらちゃんに無駄な希望持たせたせいで私は死んじゃったんだよ」
「ゆ、ゆまにはよくわからないよ……?」
「痛かったんだよ?お腹に何かの破片が刺さって、中身がぜーんぶ潰れちゃったの。ほむらちゃんが油断して織莉子ちゃんに私を殺させるチャンスを与えちゃったのが全ての原因なんだけど、ゆまちゃんにも負い目はあるよね」
 マミは左目を見開いた。まどかがショットガンを何時の間にかショットガンを手にしており、その銃口をゆまに向けていたのだ。
「だからさ、ゆまちゃんのお腹をぐちゃぐちゃするね、ウェヒヒヒ」
 しかし凶行を阻止することは出来なかった。マミが変身しようとソウルジェムを構えた時点で、ゆまの腹部に風穴が出来上っていた。
 力なく倒れたゆまはなんとか自分の傷を癒そうとソウルジェムを手にしたが、まどかに毟り取られてしまった。毟り取られたソウルジェムは、限界まで穢れを溜めこんだものが一つ、ひびの入ったものが一つ、そして全壊したもの一つ。合わせて三つのソウルジェムを、ゆまは持ち合わせていた。
「へぇ、ソウルジェム三つもあるんだね。それならもう一つ壊しても大丈夫だよね?さっきので一つ壊れたみたいだけど、まだ息があるし」
 まどかは笑みを崩さないまま、ひびの入ったソウルジェムを握り潰し、ゆまの作り出した血だまりに残骸を投じる。風穴から覗く赤い臓物を見て満足したのか、濁ったソウルジェムも血だまりに投げ込む。
「はい、残りの一つ返すね。この濁り方だとそのうち魔女になっちゃうけど」
「魔女……、わたし、が……!?」 
「どうでもいいけど、マミさんもゆまちゃんもそっくりだね。だって弱いし寂しがりやだし役立たずだし」
「ちがう……!ゆまは、やくたたずなんか、じゃ……!」
 ロクに呼吸もできないゆまは、それでも必死に訴えた。自分は弱くないと、役立たずじゃないと。
 可哀想な幼子の言葉には耳も貸さず、改めてマミの顔を見たまどかは攻撃の矛先を彼女に向けた。
「こんなちっちゃい子の一人や二人守れないくらい弱かったんですね、マミさん」
「………」
「そんなゾンビみたいな顔しないで下さいよ。ゾンビならゾンビらしく死んでいて下さい。気持ち悪い」
 かつて、さやかはソウルジェムの真実を知った際に魔法少女をゾンビと呼んだ。それを受けたほむらは、魔法少女の身体を放置すれば腐ってしまう蛋白質の塊と言った。そして今のマミの顔面の傷は、ゾンビと見間違うほど醜いもの。まどかの言葉は単なる暴言でしかなかった。
 マミは激情に駆られながら変身するや否や、カノン砲を召喚してまどかを砲撃した。至近距離で放たれた砲弾は、どういうわけかまどかには命中しなかった。
「あ、そんなことしちゃうんですか?マミさんってほむらちゃん以上のクズですね」
 歪んだ口元から暴言が溢れるまどかは、紫に輝く宝石をマミに見せつけた。
「まあ、そんなクズなほむらちゃんのソウルジェムはここにあるんですけどね。ウェヒヒヒ」
「……!?」
「頑張って見滝原まで来て下さいね!次は必ず貴女も絶望させてみますよ!」
 そう言って髪をかきあげたまどかから笑顔が霧散し、見下すような視線でマミを刺した。
「巴マミ」
 一瞬にして姿を消したまどかに呆然とするマミ。だが、魔女と思わしき魔力を察知してカノン砲を構え直した。
 まどかの襲撃の次は魔女の出現である。瀕死のゆまが傍で倒れているこの状況での出現するだなんて、空気が読めないにも程がある。
 迂闊にゆまを治癒できない状況ごと、魔女の結界はマミを飲み込んだ。



 小学生の絵日記とでも言うべきなのだろう。大雑把に描かれ色を塗られた家に女性に男性に少女……家族団欒の一風景を切り取ったものか。皆一様に笑っている。他の絵も似たようなものばかり。
 そんな絵が結界の壁一面に貼りつけられていた。
 結界の中心には、完全に生気を失ったゆまが横になっていた。ゆまの傍らに、全身が黒く爛れた鬼のような化け物が突っ立っていた。恐らくはこの結界の主、魔女であろう。白濁とした目玉が何かを探しているかのように動いていた。
 そんな魔女がマミの姿を認めると、ゆったりとした足取りで彼女に近寄ってきた。
「マミ……ゆまハやくたたずジャナイヨ……」
「ゆ、ま……ちゃん!?」
 マミは思わずカノン砲を取り落としてしまった。魔女が自我を持って何かを喋りかけること自体、マミにとっては初めてのことであったし、何より目の前の魔女がゆまであるかもしれないということに驚きを隠せなかった。
 かつてゆまであった魔女の手が、マミに触れた。三本しかない指でマミの頬を撫でると、魔女は濁った声を出した。
「ゆまハネ、ママニイジメラレタトキ、イツモ考エテタヨ。死んじゃった方ガイイッテ。デモ魔女ニ襲ワレテ死んじゃうってトキ、ゆまハ必死ニ生キヨウトシタンダ」
 凝り固まって動かしにくくなっていたマミの表情筋が、悲しみを描いた。
 魔女の指は、今度はマミの喉元に触れた。
「ソノ魔女ニ、ゆまハナッチャッタ。いつかマミモゆまミタイニ魔女ニナルカモ」
 嗚咽を漏らし始めたマミの頭を、不器用ながらも撫でる魔女。その姿はとても人を食らう化け物には見えなかった。
「デモ、いつかハいまジャナイヨ」
 マミを撫でる手を止めると、魔女は自身の顔の右半分に指を突き立てた。
「ひとハみんないつか死ヌヨ、マミハホントウニいま死ヌノ?」
 勢い良く顔を指で突き刺し、白濁とした眼球を抉り取った。手当たり次第に混ぜたアクリル絵具が作り出してしまった色合いの体液が、眼球に纏わりついている。
「ゆまハ、死ンデホシクナイ。マミニハ、生キテホシイ」



 主なき結界は崩れる。
 マミは黒ずんだ体液を瞳から漏らしながらその場に座り込んでいた。
「ごめんなさい、ゆまちゃん……!私がもっと強かったら……!」
 濁った右目に、黒く爛れた目蓋。不器用な三本指の右腕。そして声と表情。それらをマミに譲り渡した魔女は、カノン砲を拾い上げると自身の胸に砲口をあてがって引き金を引いた。
 砲弾が魔女の身体を粉々にし、結界は崩れ去った。
 役立たずじゃない、ということを伝えるためだけに魔女になった幼き魔法少女。マミはまたしても優しさに助けられたことを痛感した。
 マントの裾で涙を拭い、力強く立ち上がったマミは決心した。
 自分のために死んでしまった魔女の、ゆまのためにも、願いを叶えることを。
 そして仇を討つことを。



 ボロのマントを風になびかせ、夜の見滝原を一人歩く魔法少女が居た。薄汚れて大変お粗末な衣装の彼女は、濁った右目で夜空を見上げた。
 夜空に浮かぶ月もまた、魔法少女にならってフードで顔を隠していた。



つづかない



~あとがき・オブ・ザ・ムーン~

 タイトルを“Shattered Mami's heart”としましたが、これを日本語に訳すと『粉々になったマミの心』となります。多分。
 そんなわけでマミさんを遠慮なくぶっ壊しました。
 劇中ではマミさんが心因性発声障害を患っていますが、原因は言わずもがなほむらさんです。というか、『ほむらーど・グラス』にしても本作にしても大概の事件の原因はほむらさんです。

 マミさんの怪我やマントの元ネタは『トランスフォーマー ダークサイド・ムーン』においても暗躍する我らが破壊大帝メガトロン様の痛ましいお姿だったり(
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コメント
コメント
マミさんがダーク化したような印象を受けますね。見た目と目的辺りから(´∀`)
なりふり構わない戦い方が凄まじい…。原作のマミさんなら絶対やらなそうな戦い方ですねw
カノン砲を右手&両背に装備するとこで、何故かガンキャノンを思い出しましたww

ノリべえが見えないとこで仕事をしていた…!やるなノリべえww
三つの願い事の内の一つは「役に立ちたい」とかでしょうかね?

そしてまどかというかほむらちゃん相変わらず容赦無いww
2011/08/04 (木) 20:19:44 | URL | クチナシ #-[ 編集 ]
Re:
>>クチナシさん
ダーク化、というより堕ちた、というイメージで書いてました☆ウェヒヒ
カノン砲両肩装備は、はい、あの……自分でもガンキャノンっぽいなぁと思いましたww

あんなんでもインキュベーターのリーダーなので、仕事のできるオッサンなのですよノリべえは(

どんな願いにしても、ゆまの魔法少女としての素質はまどかの下位互換みたいなものなのでチート気味な治癒魔法を使えますぜ

容赦ないのがデフォなので諦めて下さry
2011/08/04 (木) 22:08:24 | URL | 影月 #-[ 編集 ]
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