カゲツキくんは作り出した何かを全力で投下していきました。
二次創作系小説を書き散らかしつつ、個人的に興味深いホビー(TF系多し)について騒ぎ立てるブログだったのですが、最近では自分で何やってるのかよくわかってません。そんなカンジのブログです。
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ほむらーど・グラス⑨~もう誰も信じられない
2400025000字ですってよ奥さん…

はいそんなわけでほむらーど・グラスも残すところ二話となり、いい塩梅にクライマックスに向けて加速し始めたような気がします影月です自分でも何言ってるか意味不明です(



↓シリーズへのリンク集です
第一話
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話
第七話
第八話




CAUTION!!
※魔法少女まどか☆マギカ本編に関するネタバレが含まれています
※このループでのほむらさんはまどか依存症レベルMAXです
※このループでのキュゥべえはきれいなキュゥべえです
※キャラ崩壊が悲惨です
※オリジナルキャラのノリべえ/フレイムインキュベーター、アントリアンが登場します



以上の点を御理解いただいた上でお読み頂ければ幸いです。










 まどかと出会う前。
『暁美さん退院ですって』
『あれ、あの娘ってまだ手術受けてないんじゃ……?』
『なんでも、手術に耐えられそうにないみたいよ。このまま入院したままっていうのも可哀想だから、って』
『でも、普通に過ごせるのかしら?』
『わからないわよ』
 眼鏡をかけたほむらは看護婦たちの話を聞いて俯いた。

 まどかの死を三回見届けた次のループ。
『暁美さん退院ですって』
『ああ、あのイメチェンした娘?』
『残りの人生を楽しもうって思っているのね。ずいぶんポジティブじゃない』
『でも、普通に過ごせるのかしら?』
『あれだけ可愛いから、大丈夫じゃない?』
 眼鏡を外したほむらは誰にも頼らないと決心していた。

 まどかの死を千回見届けた次のループ。
『暁美さん退院ですって』
『大丈夫なの?あの娘、情緒不安定すぎない?』
『中学生なら仕方ないでしょ』
『でも、普通に過ごせるのかしら?』
『外見は私らより出来がいいから大丈夫よ……多分』
 怒りに肩を震わせるほむらは看護婦たちを睨みつけていた。

 まどかの死を一万回見届けた次のループ。
『暁美さん退院ですって』
『なんで退院できたのかしら……?』
『さあね』
『普通に過ごせるのかしら、あの娘』
『本人の努力次第じゃない?』
 病院を抜け出し、血まみれになって帰ってきたほむらが、看護婦たちを一瞥した。

 まどかの死を十万回見届けた次のループ。
『暁美さん退院ですって』
『おかしいでしょ、あの娘って確か精神科に……』
『しっ、言っちゃダメよ!』
『でも、普通に過ごせるわけ……』
『な、なんとかなるはずよ』
 ほむらの凍てつくような視線に、看護婦たちは怯えていた。

 まどかの死を二十万回見届けた次のループ。
 ほむらの話をする看護婦はみな行方不明となった。

 まどかの死を二十五万三千四百四十回見届けてきた今。
 かけがえのない友達の死は、確実にほむらを歪めていた。
 今日も今日とて、ほむらは引き金を引いていた。



ほむらーど・グラス⑨~もう誰も信じられない



 ホモサピエンス、つまりはヒトという生き物はどんなものであれ、何かに依存している。他人、モノ、薬物、酒、宗教などなど……。挙げればキリがないだろう。
 それは魔法少女とて例外ではなく、際立ってひどい症状を抱える魔法少女が見滝原に居た。
「ぅぅぅぅぅ……!!まどかぁ……!!」
 自分の肩を抱いてすすり泣く黒髪の少女がそれである。
 本来の暁美ほむらは、病弱でドジでネガティブな女子中学生でしかなかった。それなのに、たった一人の友達を救うべく常識から大きく逸脱した長い時間を孤独に戦ってきたせいで、成長を止めた未発達で未成熟な精神は大きく歪んだ。
 結果的に、ほむらの世界はまどかを中心に回るように出来上ってしまった。朝の陽射しも地を潤す雨も時が進むのもほむらの心臓が辛うじて動き続けているのも一切合切まどかのおかげであると、ほむらは本気で信じていた。
 ヴィィィ、と携帯電話のバイブレーションが作動すると、ほむらは震える指先で通話ボタンを押した。
『聞こえるか『旅行者』』
 相手は軍事衛星の『本体』だった。ほむらの切り替えは実に素早かった。
「……ええ。それで、どうしたの」
『我々の母星がエネルギー問題で困窮しているのは知っているだろう。そんな我々の元へ契約を持ちかけたのはお前だ、『旅行者』。そろそろエネルギーを寄越せ』
「言ったはずよね。ワルプルギスの夜を越えたらいくらでもソウルジェムを譲渡してあげるって」
『今すぐ必要なんだ、我々は故郷を失うわけにはいかない』
「なら、インキュベーター星の座標を割り出して今すぐ侵略すればいい。私が放逐したインキュベーターたちが貴方の衛星を使って母星へ帰還しようとしているわ。近いうちに座標が割れる」
『それも構わないが、一度どれほどのものか確かめないといけないだろう』
「では、巴マミの身体から頭ごと切り落とすことにしましょう。ちょうどソウルジェムは頭にあるわけだし、もう一度死の危機にさらされる恐怖を植え付けてから息の根を止めるのも素敵ね」
『……どうして、同族をこうも簡単に殺せるのか理解できないのだが』
「まどかは、私にとってかけがえのない人だから」
『よくわからんが、頼んだぞ』
 ぶつり、と通話が終了する。ほむらは手にしていた携帯電話を放り投げた。



 帰宅途中のまどかの前に、マントを被った魔法少女が立ちふさがった。
 まどかは変わり果てた先輩の姿に唖然とした。
「どうしたのかしら鹿目さん?ゾンビでも見るような目で見て」
「マミ、さん……ですか!?」
 不愉快な音を立てて濁った右目を蠢かせるマミに怯えるまどか。魔法少女とも魔女とも見えない今のマミは化け物としか言えなかった。
 すっかり腰を抜かしてしまったまどかの手をとるマミ。黒く爛れた手から伸びる三本の指がまどかの手の甲を優しく撫でるが、まどかに余計な恐怖を与えただけだった。
 肩をすくめたマミは、まどかを諭すようにこんなことを言った。
「一人殺せば殺人者、百万人殺せば征服者、全滅させれば神――って、どこかの誰かが言っていたわ。なら、こういうのもアリじゃない?一人救えば偽善者、百万人救えば英雄、全員救えば神、って。……ねぇ、鹿目さん。貴女にはそのどちらにもなれる素質があるの。神様になってくれないかしら?」
「そんなの、無理ですよ……!私なんかに、そんなことできません……」
「謙遜する必要なんてないわ。貴女は強い。暁美さんよりも、ずっとずっと」
「……ほむらちゃん、より?」
「そうよ」
 英雄に、ヒロインに、もうすぐなれるんだ――。
 マミの思考はそんな願いで染まっていた。そして、肝心なことを忘れてしまった。以前、死んだはずのほむらのソウルジェムをまどかが持っていたことを。もちろん、ソウルジェムはすでに本来の持ち主の元へ戻っていたわけだが。
「まどかを都合のいい神様になんかさせない!!」
 ポーカーフェイスで作り上げた仮面を被るつもりなどないのだろう、怒りを剥き出しにしたほむらがマミの背後に出現した。ほむらの手にはアサルトライフルとサブマシンガンがあった。
 舌打ちしたマミはまどかから手を離すと、振り向きながらカノン砲を召喚してほむらに砲口を突き付けた。
「鹿目さんには力がある。そして鹿目さんは力を求めてる。それなのに貴女は鹿目さんが持っている力を解放させまいと躍起になっているわ。まるでいじめられっ子に反抗させまいとしている弱いいじめっ子のようね、貴女。情けないわ」
「まどかは充分強い……これ以上の力は、まどかを破滅させるだけ。どうしてそれに気付かないの?」
 互いに間合いを取ると、マミとほむらはそれぞれの得物の引き金を引いた。爆風と薬莢と硝煙が飛び交い、巻き込まれそうになったまどかが悲鳴を上げた。
 ほむらは残弾が尽きたアサルトライフルとサブマシンガンを放り捨てると、今度はデザートイーグルとコルト・ガバメントを手にしてマミを狙う。対するマミも新たにカノン砲を召喚して対抗した。
「貴女こそ気付くべきよ、鹿目さんの力は貴女の運命さえ救済してくれるの」
「私が救済される必要なんてない!」
「なら、死んで」
 容赦なくカノン砲が火を噴き、ほむらが間一髪のところで砲弾の襲撃から回避する。お返しとばかりに銃口を向けると、ほむらは時間を止めた。ほむらを睨みつける、ボロのフードから覗く濁りきったおぞましい目玉に狙いを定め、マガジンに込められた弾丸をありったけ放った。
 凍りついた世界が再び動き出し、弾丸が黒ずんだマミの顔の肉を抉り取った。油絵具のような体液をばら撒きながら吹き飛ぶマミに追撃を仕掛けるべく、拳銃を投棄してM37散弾銃をバックラーから取り出すほむら。狙いは右目。だが、
「ほむらちゃん止めて!!」
あろうことかまどかがほむらの腕にしがみついた。
「離して」
「絶対に離さないから!」
 体勢を直したマミはカノン砲をほむらに向けた。まどかに捕まえられている今なら確実に命中するだろう。涙なのか血なのかわからない汚らしい液体を垂れ流しながら睨み付けてくるマミに気付いたほむらは、まどかごと砲撃されてしまうだろうと判断した。
「まどか、離さないで」
 ならば切るべきカードはただ一枚。時間停止しかない。
 ほむらとしては魔法に頼りたくなかったし、まどかに時間の止まった世界を認識してほしくなかった。だがそんなことを言ってもいられない。散弾銃を投げ捨てやむなくバックラーを作動させる。
 鬼のような形相でカノン砲を構えるマミも、空を流れる雲も、何もかも固まったのを確認したほむらは困惑するまどかを抱き上げると、カノン砲の射線上から離脱した。
「ほ、ほむらちゃん……何なの、これ」
「これが私の魔法。そうね……、有り体に言うなら『時を止める魔法』ってところかしら」
「すごい……」
「褒められたものじゃないわ。この魔法のせいで、私は貴女の倍の時間を誰にも知られないまま過ごすことになったもの」
 時を止める、という一見高性能な魔法を使えるほむらだが、もちろんデメリットは存在した。
 自分以外の全ての時が止まるということは、裏を返せば自分の時は止まらないということ。魔法を使えば使うほどに、周囲との齟齬が生じる。同じ時を過ごすことなどもちろん叶わない。
 そして第二の能力が、それを悪化させる。泥沼に全身を沈めてしまったほむらが救われる道は、もはや存在しないだろう。
 ほむらはまどかの安全を確保すると時間停止を解いた。
 途端、マミはほむらがそこに居るものだと勘違いしたままカノン砲の引き金を闇雲に引いた。当然、砲弾がほむらを襲うようなことはなかった。
 苛立つマミはカノン砲を投げ捨てると、襟元のリボンを解いた。これが拘束魔法の予備動作であることくらいほむらにも見当がついた。抱き上げたまどかを降ろす暇もくれないのかと溜め息を吐くほむらは、リボンが自分を縛りあげようと飛んできたのを見るともう一度時間を止めた。
 ほむらは離れた場所にまどかを降ろすと、バックラーからポリタンクと焼夷手榴弾を取り出した。ほむらに触れていないまどかには、これを認識する手段はない。
 リボンと、それを操る魔法少女にポリタンクの中身をぶちまける。そしてピンを引き抜いた焼夷手榴弾を放り投げ、マミの背後に立って時間停止解除。
 賢明なる読者諸兄なら察知しただろうが、時の止まった世界で細工されたマミは見事に炎に包まれてしまった。リボンは役目を果たすことなく燃え尽きる。
 火達磨にされ悶えるマミを一瞥すると、ほむらは呟く。
「いつか、まどかは引っこみ思案な私にこう言ってくれた。私の名前が素敵だと。燃え上がるようなこの名前のように、かっこよくなればいいと。さて、今の私はかっこいいのかしら。燃え上がっているのは私ではなく巴マミなのだけれど」
 髪をかきあげると、ほむらはバックラーから対戦車ライフルを取り出した。狙撃手の身長より長い銃身を持つそれを、ほむらは火達磨に向けて構えた。しかし、またしても邪魔が入った。
「もういいだろう!コレ以上マミを虐めてやらないでくれ!!」
 猫か犬かよくわからない小動物が、ほむらに飛びかかったのだ。小動物のせいで見事に照準が狂ったほむらは、あらぬ方向に弾丸を放ってしまった。
「ッ!……イィィィンキュベェェェェタァァァァァ!!そんなに殺されたいならいくらでも殺してあげるわ!!」
 対戦車ライフルを手放すと、新たに手にしたアーミーナイフを振り回して小動物――キュゥべえに切りかかった。
 怖くてたまらないのだろう、足が震えているが、大事な友達であるマミのためにほむらの注意を引きつけるキュゥべえ。
「たった一つしかないまどかの命の前で、蛆虫のように湧き出てくる宇宙全体の生命の未来に何の価値があるの?お前が無意味にこだわる有機生命体だということはとっくの昔に理解してはいるけれども」
「ほむら!キミは間違ってる!まどかの命も、マミの命も、宇宙に住むみんなの命も、等しく重くて尊いんだ!」
「この宇宙に平等なんてない!身も心もバラバラになりながらじわじわと苦しんで死んでいくだけの私の命が、まどかと同じ重さを持つわけがない!」
 躓いてしまったキュゥべえに、容赦なくナイフを振り降ろしたほむら。
 だが、キュゥべえの身に凶刃が突きたてられるようなことは起きなかった。
「べえさん、ほんといいこと言うよね!爪の垢を煎じてほむらに飲ましてやりたいねぇ」
「……美樹さやか、あと何回絶望したいのか言ってみなさい」
 ナイフの刃をサーベルで受け止める魔法少女の姿がそこにあった。腹部のソウルジェムが輝き、マントをなびかせる騎士風の衣装を身に纏った魔法少女、美樹さやかだ。
 ほむらは仕留め損なった魔法少女二人の相手をしなければならなくなったが、片方は経験の浅い魔法少女でもう片方は大火傷を負っているであろう魔法少女。そこまで厳しい戦いではないだろうとほむらは踏んだ。
 ほむらはバックステップでさやかとの間合いを取ってナイフを投げ捨てた。
「さぁ、かかってきなさいよ!悪の魔法少女め!愛と正義の魔法少女であるさやかちゃんが成敗してやる!」
「反吐が出るわ」
 今度の得物を出そうとしたほむらの頬を、砲弾がかすめた。軌道から考えてマミのカノン砲だろう。そうすると、キュゥべえを殺そうと躍起になっている間にさやかがマミを消火して後方支援を頼んだと考えるのが正しいか。
 さてどうするべきだ。鬱陶しい死に損ないの砲撃手を先に潰すか、それとも目の前の懲りない剣士から叩くか。
 バックラーからガトリングガンを引きずり出すと、ほむらは焼け焦げたマミが携えるカノン砲の砲口に弾薬を撃ちこんだ。砲弾が装填されたカノン砲内部にそんなものが侵入すればどうなってしまうのかくらい、ほむらはわかりきっていた。
 発射前の砲弾が爆ぜてマミの身体が吹き飛ぶ、予想通りの光景がほむらの瞳に映った。
「マミさん!?」
「あんな大物担いでるからいけないのよ」
 ガトリングガンを仕舞い、代わりにバヨネットを取り出したほむらはさやかに切先を向けた。
 憧れの先輩と肩を並べて戦うという夢のような状況をぶち壊されたさやかはサーベルを振り上げると勢い良くほむらに斬りかかった。
 相も変わらず感情に振り回される戦い方をするさやかに呆れながらバヨネットでサーベルを受け止めるほむらは、ガラ空きになったさやかの鳩尾にボディーブローを打ち込んで怯ませた。更に隙を作ってしまったさやかに体勢を直す暇を与えることなくバヨネットで斬りつけるほむらは思いつく限りの暴言を吐いた。
「弱いわ!役立たずね!魔法少女のクズめ!ガラクタの、スクラップ!」
 打ちのめされて倒れてしまったさやかの喉をヒールで踏みつけると、こんなことを言い出した。
「『おまじない』って、漢字で書くとどうなるかわかるかしら。あれ、『呪い』と書いて『まじない』って読むの。誰かのためを思っておまじないをしても、それは呪いにしかならない。魔法だってそれと大差ないわ」
 抵抗していたさやかが失神してしまったことを確かめたほむらは口元を歪ませると、黒焦げにしたマミの方向へ歩を進めた。
「巴マミ、覚えているでしょうね、かつて私が言ったことを」
 マスケット銃を召喚し、近寄ってくるほむらに銃口を向けるマミの手元は震えていた。体力をだいぶ消耗したマミは、擦れた声ながらもほむらに言った。
「私、の……可愛い後輩を、よくも……!!」
「黙りなさい!」
 華奢な脚から繰り出した回し蹴りを手に命中させ、マスケット銃を取り落とさせたほむらはバヨネットの柄でマミを殴りつけた。ほむらの攻撃はまだまだ続き、マミの膝を力任せに蹴り飛ばして転倒させると馬乗りになってマミの首を片手で締め上げた。
「よぉーし、よぉしよし……貴女の肉を掴むのは気分がいいわ。それじゃあ……貴女を殺してあげる、じわじわ苦しめてね。でもまず、手のかかる大事な仕事を済ませなければならない」
 気管を圧迫されているマミはまともに返事をすることが出来なかったが、ほむらは構わず続ける。
「……貴女の頭についているものが欲しいの、気付いた?」
「……!?」
「頭ごと貴女の魂を頂くわ」
 バヨネットの刀身をマミの首筋にあてがうほむら。刃が触れ、そこから血が滴る。ほむらがどんな凶行に出ようとしているのかを理解したマミは悲鳴を上げられないまま震え上がった。
 かつて味わった、首を噛み千切られる痛み。それに近い痛みをまた味わうことになるのかと恐怖し、殺されてしまうのだと絶望した。だが、マミはそれを味わわずに済んだ。
「おい、相棒!てめー何してんだよ!?」
 赤い魔法少女、佐倉杏子が多節棍状の仕込み槍を使ってほむらを縛り上げたからだ。拘束されたほむらは当然抵抗するが無意味であった。
 縛り上げたほむらを引きずってマミから離すと、杏子はいつものように説教を始めた。
「こいつが一体全体どこの誰なのかあたしは知らねぇ。そして相棒に何をしたのかも知らねぇ。もしかしたらてめーをブチギレさせるようなことぬかしたのかもしれねぇけどよ、だからって首を刎ねるかよ!?」
「そうよ。だから離しなさい」
 解放されたマミは咳き込みながら立ち上がると、持ち合わせていたリボンのスペアに魔法をかけてほむらを更に縛り上げた。
 杏子とマミによって二重に拘束されたほむらに、いつの間にか意識を回復したさやかがふらふらと近付いてきた。
 圧倒的に不利な状況に立たされたほむらは怒りを隠そうとしなかった。
「杏子……貴女、裏切ったわね……っ!!」
「裏切るも何もねぇ、あたしらはチームだ。行き過ぎたことやってるの見たら止めるのが相棒の義務ってもんだろうが」
「なら、離しなさい」
「ほんっと、話を聞かねー奴だな」
 乱れていた呼吸が整ったマミはほむらに自分の主張を理解させようと喋り出した。無駄だとわかっていても。
「キュゥべえたちが欲しがってるエネルギーの源は、この星に隠されているわ。鹿目さんがそれなの!」
「だからどうしたの?この宇宙の価値はまどかの有無で決まるの。そう決めたのは、私」
「この宇宙の未来よりも、鹿目さん一人の命の方が大事だとでも言うの!?」
「宇宙一個でまどかが救われるなら、安いものよ」
「貴女はそれだけでは済まさないでしょ……なら、カタを付ける!!美樹さん、やりましょう!!」
 頑固過ぎるほむらの説得を諦めたマミは、さやかに攻撃するようけしかけた。
「……まどかまどかまどかまどかって、そんなにまどかのことが好きなら、この先ずっとまどかなしじゃ生きられないようにしてやるわよ」
 ほむらの黒髪を乱雑に掴んださやかは、サーベルの切先を藤色の瞳に刺し込んだ。どうせいつもみたいに痩せ我慢するんでしょ、とずぶずぶと刀身を眼球に押し込む。しかし、ほむらは予想に反した反応を見せた。
「めめ、目が、み右、右目が見えな、見えないぃぃぃぃ!!まど、まどか、まどかあああああ!!」
 右目から血を流して錯乱するほむらに驚いたさやかは思わず手を離しサーベルを引き抜いてしまった。これまでのほむらなら痛いとも何とも言わずに切り裂かれていたはずなのに。
「まどか、ねぇどこなのまどか!?答えてよまどか!まどかあああ!!」
 さやかは理解した。ほむらは自分が手を出さずとも、最初からまどかなしでは生きられないことを。右目を潰されても、まどかしか見えていない。
 狂乱するほむらに戦慄するさやかは、どういうわけか地面が震えるのを感じた。
「離して……まどかを探さなきゃ……!」
 勘が働いた杏子は手にしていた槍を投棄し、足がすくんでしまったさやかを抱きかかえてほむらから距離をとった。
 次の瞬間、ほむらは背中に魔力を集約させて漆黒の翼を召喚した。
 翼は身体の自由を奪っていた槍とリボンをズタズタに引き裂くと、ほむらを上空まで導いた。理解し難い出来事に目を丸くしたマミを、空から見下すほむらはバックラーから常識を逸脱した火器を取り出した。
 本人の背丈以上の長さの銃身を持つそれは、M61バルカンと呼ばれる航空機用の機関砲であり、本来なら生身の人間が運用できるような代物ではなかった。しかも、それを片手に一門ずつ構えて。
「まどかはどこなの!?ねぇ、どこなの!?答えてよ!!」
 呆気にとられているマミに、M61の砲門を二門とも向けるほむらはただただまどかの名前を連呼した。そして我に返ったマミが見たのは、一発百グラムの弾丸の雨であった。



 奇跡的にマミのソウルジェムは無傷で済んだが、肉体の方の損傷が悲惨だった。肉体というより、肉塊と言った方が表現としては正しいような有り様なのだ。
 マミを猛爆したほむらはまどかの姿を見つけるまで機関砲の引き金を引き続けるつもりだろう。しかしながら、一か所に留まって乱射すればいいものを、この魔法少女は獲得した黒い翼を使って空を舞いながら大地を蹂躙した。
 地獄絵図のような状況が完成したことに内心舌打ちした杏子は、さやかとまどかを弾丸の雨から守るべく防御結界を張り続けた。
 以前、杏子は冗談を言ってほむらをからかったのだが、誤ってほむらの逆鱗に触れてしまい殺されそうになったことがある。そのときは防御結界を張って内側から謝罪して事なきを得たのだが、今回はそうもいかないようだ。
「まどかぁぁぁぁぁぁ!!」
 悲鳴にも似た叫びと轟音が空に木霊する。
 ほむらは戦闘機同然の装備をしており、杏子の攻撃が届くような相手ではなかった。何か策はないかと必死に考えを巡らせたが、なかなか思いつかない自分の頭の弱さに苛立つばかり。
 と、突然ひらめいたのだろう、轟音にかき消されないように杏子は怒鳴った。
「まどかの嬢ちゃん!あいつを呼べ!!今の相棒はてめーが見えなくてパニクってるに違いねぇ!!」
「こんなにうるさいのに、ほむらちゃんに聞こえるの!?」
「やらなきゃわかんねぇだろ!いいから叫びやがれ、このボンクラ!!」
 まどかの姿を探して狂い叫ぶほむらを止めるにはこれしかない。下手に攻撃を加えても状況が悪化するだけであるのはさやかとマミが教えてくれた。
 力の限り、まどかは暴走する魔法少女の名前を叫んだ。
「ほむらちゃーんっ!!私はここだよーっ!!」
「まどかぁぁぁぁぁぁぁ!!まど……か?」
 轟音と劣化ウラン弾の雨がぴたりと止み、ほむらは杏子の張った防御結界を見た。
 両手の機関砲をバックラーに仕舞い、召喚した翼を引っ込めながら着地すると、覚束ない足取りでまどかの元へと向かった。
「まどか、見つけた……」
「ほむらちゃん、聞こえたんだね……!」
「やれば出来るもんなんだよ」
 防御結界が失せ、まどかはほむらに駆け寄った。彼女の姿をはっきりと認識したほむらはなりふり構わずに抱きついた。
 溜め息を吐きながら、まどかに甘える相棒の姿を見つめる杏子。そういえばアイツはあたしより年下だったんだよな、とほむらの姿を見てそのことを思い出した。あんなんでも、な。
 腰を抜かして座り込んでいたさやかは状況の変化に追いつけず、口を開けっ放しにしていた。
「まどか、大丈夫?怪我してない?キュゥべえと契約してない?」
「大丈夫だよ、ほむらちゃん。安心して」
 この調子で行けばほむらも元の調子に戻るのもそう時間はかからないはず。そう判断した杏子は変身を解こうとして、背後からの破裂音を聞いた。続いて、ほむらの左目に鉛玉がめり込んだ。杏子の顔から血の気が引いた。折角黙らせたほむらがまた暴れ出してしまう。
「見えない、見えないいいいい!!まどかが、まどかが見えない!」
「お願い、落ち着いて!私はここに居るから、ほむらちゃんの傍に居るから……!」
 杏子は拳を震わせながら振り向いた。ついさっきまで肉塊だったはずのマミがマスケット銃を構えていた。歯を食いしばって泣いているマミの手元は震えている。
 どんなトリックを使って復活したのか、杏子には関係なかった。視力を完全に失ったほむらの悲痛な叫びが、杏子を苛立たせている。そんな杏子の目の前には都合よく八つ当たりしても構わないカモが居る。
「なら、ぶっ潰すしかないじゃん」
 呟いた杏子は手にしていた槍を分割して内部の鎖を露出させてしならせると、切先にマミを襲わせた。槍による襲撃を受けたマミはマスケット銃を投棄すると、新たにカノン砲を召喚して杏子を砲撃しようとした。
 武器が切り替わったのを察した杏子はしならせた槍を元に戻して、カノン砲の砲口目掛けて投擲した。発射前の砲弾に槍が突き刺さり、カノン砲内部で爆発が引き起こって再びマミは吹き飛ばされた。
 改めて槍を召喚し、吹き飛んだマミに引導を渡すべくゆっくりと近付く杏子だったが、目の前にさやかが立ちふさがった。
「退きな、さやか。今のあたしはプッツンしてんだよ」
「アンタの相棒が目潰しされておかしくなったから?それくらいどうしたっていうのよ、アンタには私が居るじゃない。そしてほむらにはまどかが居る。ほむらのことでアンタが口出す必要はもうない」
「そうかい。でも、あたしはまだアイツとのケジメをつけちゃいねぇんだよ。おかしくないうちに、とっととつけてーんだ。だから退け、巴マミが居たら相棒は永遠におかしいまんまだ」
「アンタさ、どうかしてるわ」
「あ゛?」
「否定したところで、今は嘘になんかならない。都合よく変わったりなんかしない。でも、それがわかってても、現実に耐えきれない人間も居る。私もマミさんも、ほむらだってそう。杏子が助けてくれたおかげでそのことに気付けた」
「……良かったじゃねぇか。それで?」
「世界は、キレイなだけじゃない。それに、」
 さやかは両腕を胸の前で交差させた。
「今からは……逃げられない。逃げたくもなるけど、それでも生きていくしかない。だから私は、戦う!!」
 交差させた腕を腰のあたりまで勢いよく引くと、
「変身!!」
更なる変身を遂げた。
 全身に黒い光を纏ったさやかが飛びあがると、彼女の身体に大きな変化が起きた。手始めに下半身が人魚の持つそれに形を変え、甲冑が身体を包み、最後にリボンをつけて巨大化したさやかの姿は紛れもなく魔女そのものだった。
 そう、さやかは魔女としての自分へ、オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフへと変身したのだ。
「ふふーん!どーよ、愛と正義の魔法少女さやかちゃんの圧倒的潜在能力は?」
「てめー、いい加減にしやがれ!どれだけ苦労して元に戻してやったのかわからねぇのか!!」
「大丈夫だって、自我はあるし。あ、それと今の私は恋慕の魔女オクタヴィアちゃんだからよろしく!」
「馬鹿か!相棒に殺されるぞ!」
「まどかにべったりな今のほむらに倒されるわけないじゃん」
 当のほむらは、両目から溢れる血でまどかの制服を汚しながら未だに泣き喚いていた。まどかの方も必死にほむらをあやしていた。そんな二人に目もくれず、杏子はオクタヴィアをどうするべきかを考えていた。さやかとは戦いたくないのが本心だが、そうも言っていられないようである。
 いつぞやの車輪攻撃を警戒した杏子は槍を七本召喚して手にすると、オクタヴィアに狙いを定めて槍を伸ばした。対抗する形でオクタヴィアは左腕の剣を振り上げると、襲い来る槍を端から叩き斬っていった。攻撃パターンの変化に呆然としてしまった杏子に、オクタヴィアは笑いながらこんなことを言った。
「そんなバカの一つ覚えで車輪ばっかり投げつけるわけないじゃん!それにさ、アンタの後ろにはまどかとほむらが居るわけだし」
「……まどかの嬢ちゃんを心配するのはわかるけどよ、なんで相棒も?てめーは相棒のこと嫌いだろ?」
「違う、アイツのことは大っ嫌い」
 構えていた剣を降ろすオクタヴィアは続けた。
「でも、見てて……辛いのが、痛いのがわかったから。私もほむらも、マミさんもそれは変わらない。みんな傷ついてる、それも必要以上に。だったら、コレ以上私がほむらを攻撃するわけにはいかないじゃない。だからアンタもマミさんを攻撃しないでよ、いい?」
「……面倒臭ぇな」
 完全に戦意を喪失した杏子はスクラップにされた槍を投げ捨てた。苦笑いを浮かべてオクタヴィアの目を見ながら、変身を解く。
「わーったよ、巴マミをぶっ潰すのは諦めてやる。でも、ちゃんと相棒の目ェ治せよ?」
「はいはい」
 オクタヴィアの方も変身を解き、元の人間としての姿へ戻ったさやかは杏子に笑いかけた。しかし杏子はさやかの笑顔に応えなかった。
 さやかがオクタヴィアに変身するまでは居たはずのマミが姿を消していたのだ。恐らくはオクタヴィアの巨体を利用して逃げたのだろう。幾度となく爆破されてもそのダメージを回復させて立ち上がるマミを、今のほむらがどうにかできるとは考えられなかった。
 このままではほむらがやられてしまう。かと言って今更変身してマミを攻撃するわけにもいかない。さやかの言葉に同意した手前、それを反故するのははばかれた。
 葛藤する杏子はまどかに抱きついているほむらの方を向いた。案の定、マミはほむらを仕留めようとカノン砲片手に近付いていた。
「まるでガラクタね、暁美さん……。鹿目さん、そんな魔法少女のことなんか忘れなさい」
「……美樹さやか、貴女がくれたチャンスを私は取り逃がしたりはしない。さぁ、私に同情したことを呪いなさい」
 いつの間にか泣き止んでいたほむらはいつもの調子で口を動かした。両目が使えなくなってもなお、ほむらは策を用意していたようだ。
 駄々っ子のように泣いていたはずのほむらが恐ろしいことを言い出し、戸惑うまどか。何を今更、とマミはほむらにカノン砲を向けた――その時である。
 巨大な金属塊が隕石のように上空から降り注ぎ、マミの背後に落下した。金属塊との衝突で地面はくぼんでしまい、クレーターを形成した。摩擦熱のせいか、金属塊は至るところから蒸気を出していた。
 その場に居たほむらを除く全ての視線が金属塊に注がれる。すると、甲高く耳障りな音を立て始める金属塊。得体の知れないそれに、ほむらは話しかけた。
「初めまして、と言うべきかしら。今の私には貴方の姿形はわからないのだけれど」
 亀裂が走り、雛鳥のように金属塊を突き破って出てきたのはこれまた金属質の赤い外骨格を纏った巨人であった。頭部は一対の複眼と昆虫の大アゴを模したそれで構成され、胴体部と四肢は円筒形で細長く、鋭利な爪が生えた四本の指を蠢かせている巨人はディレイのかかった声を出した。
「一度通信しただろう、『旅行者』。ちなみに我々の姿は桃色の髪をおさげにした少女そのものだ」
「それは嘘ね」
「見抜かれてしまったか。まぁ、冗談はこの辺にしておこう」
 金属音を出しながらマミを見下ろす巨人は、おもむろに自己紹介を始めた。
「我々はこの銀河系の外側にある惑星からやってきた斥候・アントリアン。滅びつつある母星を救うべくエネルギーを求めて地球を訪れた」
 巨人ことアントリアンの目的はキュゥべえのそれとほぼ同じであった。ただ救うべき対象が違うだけである。キュゥべえは宇宙を、アントリアンは故郷をそれぞれ救おうとしているようだ。
 わかりやすくクリーチャーチックな外見の割に理性的な言葉遣いの宇宙人はしゃがみこむと、マミに顔を近づけた。大アゴを開き、低い声でマミに囁いた。
「――お前が、巴マミだな。これでお終いだ」
「な、何をするの!?」
「決まっているだろう、母星のために業を重ねるだけだ!」
 その所業は実行者の見た目通りの荒々しさを持ち合わせていた。アントリアンは細長い腕をマミの頭上から振り降ろして叩きつけた。カノン砲を盾代わりにして唐突に振るわれた暴力を防ごうとしたマミだったが、細くとも金属であるアントリアンの腕の前にいとも容易くカノン砲は壊れてしまう。丸腰になったマミをその手で捕獲すると、アントリアンは背中から翅を広げこう言い残した。
「お前が同族殺しを行う前に巴マミを回収できて良かったよ、『旅行者』!では、さらばだ!」
 そのまま飛び立とうとしたアントリアンだったが、そんな彼を炎の球が襲った。ゴン、と鈍い音を立てて転倒したアントリアンに、炎を放った者が怒鳴り散らした。
「いい加減にしろォい!魔法少女は俺らインキュベーターがエネルギーを獲得するためのモンだ!おめェみてェな虫野郎が気安く触っていいモンじゃねぇ!!」
 黒と蛍光オレンジのカラーリングが目を引く巨漢、ノリべえであった。不意打ちを受けてもマミを手放そうとしないアントリアンは外骨格を軋ませながら立ち上がると怒鳴り返した。
「何を言うか、感情の一つや二つ持ち合わせていないお前達のような下等有機生命体が搾取を行うとする時点でそもそも間違っている!エネルギーを得たところでまともに運用できないなら宝の持ち腐れでしかない!!」
 ノリべえもノリべえで充分背丈があるのだが、アントリアンのそれはノリべえの倍以上はあった。凄みのあるノリべえの怒号も、アントリアンの前では霞んでしまいそうである。
「身の程を知れェい!こォんのアリ公が!」
「それはお前だ、宇宙の恥め!」
 勇敢にもアントリアンに立ち向かうノリべえは地面を蹴って殴りかかろうとしたが、何の前触れもなく降り注いできた光の柱に焼かれてしまった。
 以前にもノリべえは頭をレーザーによって吹き飛ばされたのだが、今回の攻撃はそのレーザーを発射した軍事衛星による攻撃である。しかし、この攻撃を指示したのはほむらではなかった。攻撃指示を出したのは本来の持ち主であるアントリアンだった。
 ノリべえが沈黙したのを確認したアントリアンは改めて翅を広げると空へ飛び立ってしまった。

 ほむらからまどかを引き離して胸ぐらを掴んださやかは今にも殴りかかろうとする勢いで怒鳴っていた。
「どうしてあんな奴にマミさんを!?アンタそれでも人間なの!?」
「巴マミの行動は万死に値する。本来なら晒し首にするつもりだったのだけれど、邪魔が入ってしまって彼との約束を反故してしまったわ」
「どういうことよそれ!?」
「まどかが魔法少女になってしまうそもそもの原因はインキュベーターの存在にある。でも、インキュベーターを魔法少女が殺しきることはできない。そうなると誰かの協力が必要になる。そこへ、都合よく気性が荒く技術力も他の惑星を侵略する武力も持っている地球外生命体とのコンタクトに成功した。そして私は彼と契約した。感情相転移エネルギーおよび情報を提供し、インキュベーターの殲滅と戦力の貸与を要求する旨の契約をね」
 さやかはほむらの顔の上にソウルジェムをかざし、傷ついた両目を治癒するとほむらを握り拳で思い切り殴り飛ばした。
 抵抗することなく殴られたほむらの目は、どこか彼方をじっと見つめていた。そんなほむらに腹を立てるさやかは肩を震わせた。
「それって、アンタまさか宇宙を死なせる気なんじゃないでしょうね……!?」
「宇宙が死ぬ?なら、勝手に死なせればいい。死んだら、新しい宇宙を作ればいい。そう、まどかが大好きな世界で出来た宇宙を。まどかのためなら、私は宇宙の支配者にでもなってみせる」
「そこまでして、まどかにこだわる理由って、なんなの……」
「人間一人の命で生死が左右される宇宙に、人間一人以上の価値があるわけない」
 さやかは掴んでいた手を離した。



 傷は治った。それでも、ほむらの目は世界の光景を彼女に見せようとはしなかった。
 ワルプルギスの夜襲来の日まで残りあと数日、それまでにほむらの視力が回復する保証は全くなかった。
 杏子はほむらを彼女の自室に放りこむと、露骨に苛立ちを見せているさやかの前に座ってこう言った。
「人間ってのはな、心が病んじまうと身体中ボロボロになっちまう」
「知ってるわよ、そんなこと」
「詳しいことはわからねぇけど、医者のジジイが言ってたんだ。ストレスで声が出なくなったり目が見えなくなったりすることもあるんだとよ。多分、相棒もそれで目が見えないまんまなんじゃねぇかとあたしは踏んでる」
 トッポのパッケージを開封して中身を一本手に取ると、それを齧り始めた。半分くらい食べ進めると、杏子は話を続けた。
「さやかと巴マミに目をやられたのがきっかけなだけで、元々あいつは無駄なモンをやたら抱え込んでたからああなったんじゃないか、とも思ってる」
「……わけわかんない、それ」
「ちょっと気になってな、相棒の病気について調べてみたんだよ。あたしから言わせりゃ、よくもまあこんな病人がお天道様の下で好き勝手出来るもんだなって感嘆したわ」
「病……気?」
「聞いて驚け。アイツは心臓病を治さないまま退院しやがった」
「はぁ!?」
「それだけじゃねぇ。他にも心の病気を抱えてるみたいでな、隔離されるかもしれなかったらしい」
「それって……」
「アイツは最初からボロボロだったんだよ。いつ完璧にぶっ壊れてもおかしくないくらいには」
 沈黙が、さやかと杏子の間に居座った。杏子がトッポを齧る音がいやに強調されているかのように聞こえた。
 しばらくして立ち上がった杏子は、俯いていたさやかに近寄って背中をぶった。
「いったぁ!?何すんのよ杏子!?」
「しょぼくれてる暇なんざねー。戦えなくなった相棒のことをくよくよ考えてる場合じゃないんだ。ほら、トッポやるから手伝え」
「何を?」
「魔女の祭りをぶっ潰すぞ」
 出来ることならほむらと肩を並べて戦いたかった。それが叶わないなら仕方ない。杏子は相棒を見限り、さやかと共にワルプルギスの夜に立ち向かうことにした。



 帰宅したまどかは力なくベッドに倒れ込んだ。
 信じていたほむらが本性を露わにし、憧れていたマミは妄想に取りつかれ魔法少女になることを強要し、挙げ句新たな宇宙人が参戦し状況を必要以上に混乱させた。
 どうすればいいのかわからなかったまどかを、窓の外からノリべえが覗いていた。
「なァ嬢ちゃん、おじさんとォ、お話ししようや。今度ばかりは契約を強要するつもりはねェんだ」
 窓越しに話しかけてきたノリべえに、まどかは静かに怒りを見せた。
「今更何を言うの?全部貴方のせいじゃない。貴方のせいでほむらちゃんもマミさんもさやかちゃんも、みんなみんなおかしくなったのに」
「悪いけどよォ、俺らインキュベーターにとって魔法少女は駒と家畜を兼ねた都合のいい存在でしかねェんだ」
「どうでもいいって言うの?」 
「嬢ちゃんは、家畜……例えばブタだな。ブタに対して引け目を感じるのか?奴らがどういう過程を経て嬢ちゃんの口に入るのか、知ってるか?産まれてから狭苦しい場所にぶち込まれ、何も知らされずにぶくぶくと肥やされ、頃合いを見てぶっ殺されるんだ。食いやすいように部位ごとにバラバラにしながらよ」
「……ッ!!やめてよ!」
「その反応は理不尽じゃァねェか?これを残酷っつうなら、嬢ちゃんはなァんにもわかっちゃいねェ。ブタはエサにされること代わりに、偉大なる自然から淘汰されずにぶくぶくと数を増やしてんだ。ブタに限らずウシもトリも、他の生き物に比べりゃ、その増え方は圧倒的でェ。地球人と家畜共は、こうして理想的な共栄関係を獲得して日々を過ごしてる――これが真実だ」
「同じだって、言いたいの?」
「そう解釈したのが暁美ほむらだ。ったく、精神疾患の塊め……」
 ノリべえは舌打ちしてまどかの表情を窺った。まどかは懐疑的な表情を見せており、はぁと溜め息を吐いたノリべえは強硬手段に出た。
「いいかい嬢ちゃん、さっきの家畜と人間の話はあくまでも例え話だ。俺らインキュベーターと地球人の関係はそっくりそのまま家畜と地球人の関係じゃねェってことを理解してくれよ?暁美ほむらはその辺を曲解していやがるから、あんなゲスな真似が平気で出来るんだ。つーことで、とっておきのモンを見てもらおうか、インキュベーターと地球人が、共に歩んできた歴史をなァ!!」
 両目から発射した怪光線をまどかに命中させたノリべえは、部下のインキュベーターたちが見てきた人類の、魔法少女の歴史を幻覚としてまどかに見せつけた。
 歴史上の偉人と呼ばれた女性たちがインキュベーターと契約し、願いを叶え祈りを達成させ時代を作り出し歴史に転機をもたらし社会を新しいステージへと導き、そして絶望に飲み込まれて死んでいく光景を延々と繰り返すだけの映像を、まどかは見せつけられた。
 祈りから始まり呪いで終わるサイクルを数多の少女が繰り返したことで、今の社会が成立していた。
「もうやめて……!みんな、みんな信じてたの。信じてたのに裏切られたの!」
 まどかは悲痛な叫びを上げた。だが、ノリべえは映像の再生を中断しようとしなかった。
 映像は時代を重ねるごとに欲にまみれ薄汚れていった。

 まどかは肩で呼吸をしていた。衝撃的な映像の再生は無事に終了したのだ。
「数多の魔法少女の犠牲が、歴史を築き上げた。こいつァ紛れもねェ事実だ。当然、その犠牲が今の地球人の暮らしのベースになってることもよォ……。それを正しく認識できねーから、たかが一人の運命だけを特別視するバカが出しゃばんだ。例えば暁美ほむらみたいな、歯車になりきれねェ奴が」
「ずっとあの子たちを見ながら、あなたは何も感じなかったの?みんながどんなに辛かったか、わかってあげようとしなかったの?」
「見てきたのは俺じゃねェ、部下だ。それに、俺らインキュベーターにとって感情なんざ一介の精神病でしかねェ。だからこそ、全ての個体が個を主張しながら感情を持ち共存する文明がこの宇宙に存在するとは思えなかった。その傾向が特に顕著なのが、お前ら地球人だ」
「もしも……キュゥべえたちがこの星に来てなかったら、どうなってたの?」
「ンー、そうだなァ……。今頃、お前らはたァだの猿だったろうよ。進化の系図から考えてな」
 ノリべえは部下たちがかき集めてきた情報を基に淡々と話してきただけであり、そこには何の感情も存在しなかった。お粗末ながらも若干の感情を持ち合せているノリべえが感情を見せるときと言えば、せいぜい部下がしくじった時とほむらが語ってきたような傲慢な主張に遭遇した時くらいである。
 今回の『お話』だって、いずれ来たるワルプルギスの夜に際して契約させようとするノリべえの策でしかない。まどかを慰めたり同情したりするために雑談しに来たわけではないのだ。
 そんなノリべえはダメ押しの作業に入った。
「ホモサピエンス、要するにお前らのことだが、ホモサピエンスなみの知能を持つ生命体は自分の中に『鏡』みたいなモンを持ってんだ。『鏡』に映った自分を見ることで自己を確立していらァ。暁美ほむらのは、だーいぶひび割れてるみてェでよ、自分を正しく見ることが出来なくなりつつあるようだ」
「……ノリべえ、もしも、もしもだよ?ほむらちゃんの『鏡』が壊れたら、ほむらちゃんはどうなるの?」
「自己を確立できねェ知的生命体はたァだのスクラップだ。暁美ほむらはすでに十分ぶっ壊れてるけどよォ、そうなったら完全にぶっ壊れちまう。完全にぶっ壊れて、今度こそ他の魔法少女に殺されるだろうよ」
「嘘でしょ……!?」
「そもそもホモサピエンスの精神はお前らの時間単位で一世紀と数十年っつう短い時間さえ耐えられねェような脆弱な代物だ。それなのに暁美ほむらは二十ウン万回も俺らインキュベーターからお前さんを守ろうと戦い続けてきた。それこそ数多の文明が滅びて新たな文明が興るのにかかる以上の時間をよ。はっきり言って未だに戦い続けていること自体有り得ねぇ。存在そのものが奇跡だ」
 まどかは目を見開いたが、ノリべえはそんなまどかに背中を向けて立ち去ってしまった。



 杏子とさやかはほむら宅から大量の爆発物を運び出し、四トントラックに積載していた。呆れるような量の爆博物に、さやかは思わず溜め息を吐いた。
「なんなのよ、この家は!爆弾とか多過ぎ!傭兵じゃないんだから、もう!」
「黙って運べよ……。ワルプルギスの夜をぶっ殺せねーと、あたしらは明日の朝日を拝むことさえできねーことになんだぞ」
「はいはい」
 ぶつくさと文句を垂れるさやかは、しぶしぶとクレイモア地雷を運んだ。
 そこへ、まどかが姿を見せた。はたらけーうごけー、とさやかを働かせる杏子がその存在に気付いた。眉をひそめた杏子はまどかに近付くと、何をしに来たのかと問いただした。
「ほむらちゃんと話して、本当のことが何なのか、確かめたいの」
「真実は正義じゃねぇ。てめーをパニクらせるだけだ、さっさと帰りな」
 杏子としては、これ以上まどかをほむらに近付けさせたくなかった。ほむらの暴走は全てまどかが原因であることを杏子は勘付いていた。そうなると尚更接近させるのは危なくなってくる。当然、杏子はまどかを門前払いしたかったのだが。
「ぎゃー!?」
「って、何してんだよさやか!」
 さやかの情けない悲鳴を聞いた杏子は、まどかを追い払わずにどこかへ行ってしまった。



 ほむらの自室にはフレームに収められた写真が山ほど飾られていた。そのほとんどが女子中学生が二人仲良くポーズを取っているものである。一人は桃色の髪の少女で、もう一人は黒くて長い髪の少女。
 だが、それらは全て黒髪の少女の部分だけ意図的に傷つけられて見えなくなっている。
 そして、例外的に無傷な写真が一枚だけ残されていた。桃色の髪の少女と三つ編みに赤縁眼鏡の少女がそれぞれの魔法少女としての衣装を身に纏って写っている写真であった。
 そんな部屋の主は、ベッドの上で死体のように寝転がっていた。目を開いてはいるが、明らかに焦点が合っていなかった。 
「ほむらちゃん、入っていい?」
「……まどか?」
 ぴくり、とまどかの声に反応したほむら。どうしてここにまどかが居るのか、どうして自分の家の住所を知っているのか、そんなことはほむらにとっては些細な問題であって。
「入って」
 まどかの入室を快諾した。
「話して。ほむらちゃんの知ってること、隠してること、やってきたこと、全部話して」
 入ってきて早々に、まどかはほむらに全てを打ち明けることを要求した。数秒ほどほむらは躊躇ったが、今更迷う必要もないだろうと全てを語ることにした。
「私の、本当の願いを教えるわ」
「……なんで隠してたの」
「知らない方が貴女は幸せになれるもの」
「それで、ほむらちゃんの本当の願いって、何なの?」
「――かれこれ二万年、いいえそれ以上前になるかしら。私が、魔法少女になる前の話よ」

 魔法少女になる前のほむらは、心臓病を治すための手術にさえ耐えられないほど病弱だった。主治医も匙を投げるほどに病状は芳しくなく、ほむらの余命を一年と診断した。そして、ほむらに告げた。
『ほむらちゃん、もし君が望むなら学校に通ってもいいんだよ』
 こうして、ほむらは見滝原中学校に転入することになった。
 最初の内はほむらも嬉しかった。病院生活から解放されて、普通の中学生として過ごせるんだと。
 見滝原中学校に転入したほむらは、まどかと出会った。この出会いがほむらの運命を大きく狂わせるとは、このときは思いもしなかった。
 だが、ほむらの希望はあっさりと破られてしまった。
 勉強も運動もからっきし、イメージとまるで違うだのなんだのと陰口を叩かれて恥をかいた。見知らぬ土地で頼れる友人も親も居らず、家に帰ってもほむらはずっと一人。辛かった、寂しかった。死んでしまおうかとも思った。
 そんなとき、ほむらは魔女に襲われてしまったのだが、そこを魔法少女に変身したまどかに助けられた。
 自信に満ち溢れ誰にでも優しくそれでいてかっこいいまどかに、ほむらは憧れた。
 ほむらは、まどかに守られながら魔女退治に同行してまどかの雄姿を見続けた。それがどれだけ自分の心臓に悪いのかということくらいわかっていながらも、ほむらはまどかの背中を追い続けた。
 そして、ワルプルギスの夜が訪れてしまった。まどかはたった一人でワルプルギスの夜に立ち向かって、散ってしまった。
 まどかの死を、ほむらは心底悲しんだ。同時にほむらの心臓が止まろうとしていたことに気付き、ほむらはむせび泣いた。煤や埃や涙ですっかり汚れた眼鏡越しにまどかの死に顔を見つめながらほむらは思った。
(あぁ、私死んじゃうんだ。まどかと友達になれないまま、恥をかいたまま、独りぼっちのまま、死んじゃうんだ)
 諦めかけたそのとき、キュゥべえが現れた。そしてほむらは霞んできた意識をなんとか保ちながら、願いごとを告げた。

「『私は、鹿目さんとの出会いをやり直したい。彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい』。キュゥべえに向かってそう言ったわ」
「そう、なんだ……」
 まどかは、ほむらの隠された過去を知って戸惑った。そして、その過去に自分が魔法少女として登場していることに驚いた。
「魔法少女が使える魔法は、祈りによって決まる。私の場合は、時間停止と時間の巻き戻し。二万年だなんて現実味のない時間を過ごせたのも、この魔法のおかげなの」
「それって……」
「巻き戻してきた時間の分だけ私は生きてきた。巻き戻す度に貴女の死に遭遇し、それ以外の人々が死んでいく光景にも遭遇し、心を痛めた」
 涙を流しながら、ほむらは続けた。
「そのうち、まどか以外の誰かが死んでしまうことに慣れてしまったの。感覚が麻痺して、まどかが無事ならいいやってなっちゃって……」
 ほむらは身体を起こし、まどかの傍へ行こうとしたが何もないところで躓いて倒れてしまった。
「ほむらちゃん!?」
「ごめんなさい……!貴女の頼みとは言え、一度貴女を殺してしまったの……!この手で、貴女のソウルジェムを砕いて、貴女を殺した!ぅぅぅぅ……だから、だから!もう二度と、貴女を殺させたりなんかしないと誓ったのに、それなのに……」
 床に這いつくばってまどかの元を目指すほむらの仮面は見事に砕け散っていた。
「私はずっと弱いままで、ドジなままで、結局鹿目さんに守られてばっかり……。いつまで経っても貴女を助けられないまま、時間を巻き戻し続けて、気付いたらすごく長い時間を独りで過ごしちゃったんだ……」
 すっかり魔法少女になる前の自分に戻ってしまったほむらは、隠していた思いを今度こそ全て吐き出した。
「巻き戻すほどに、やり直すほどに、鹿目さんと私の時間はずれて、気持ちもずれて、言葉も通じなくなって。たぶん今の私の言葉もわからないだろうし、何も伝わってないと思う」
「大丈夫だよ、ほむらちゃん。確かにわからないこともあるけど、ほむらちゃんが私のことを大切に思ってるってことはわかったよ。ちゃんと伝わったよ」
 まどかはほむらの身体を起こすと、そのまま優しく抱きしめた。なめらかな黒髪を指で梳きながら、ほむらの背中を撫でるまどかはしばらくの間何も喋らなかった。

 落ち着いたのを見計らって、まどかは口を開いた。
「ほむらちゃんが私のことを助けようとしているのはわかるけど、でも、ほむらちゃんのやっていることは他の魔法少女のみんながやってきたことや想いを無駄にするようなことなんだよ?今まで死んでいった魔法少女のみんなのことを、ほむらちゃんは考えたことはあるの?」
 自分の方を全く見ようとしないほむらの肩を揺するまどか。ほむらもほむらでまどかの方を向こうとしてはいるのだが、失明したほむらにはそんなことは出来なかった。
 それでも、まどかに返事をすることは出来た。
「人はみな、自分を可愛がるのよ。これまで生きていた魔法少女がどんな願いをしたのか私は知らないけど、最終的には自分のために契約した。自業自得で身を滅ぼした愚か者に興味なんてない」
「おかしいよ……!それじゃ、ほむらちゃんのしてることは、インキュベーターのしていることと変わらないよ!」
「目には目を、歯には歯を、冷酷さには冷酷さよ。私はインキュベーターと同じ手段をとることにした」
 だから、ほむらは故郷を救おうと奮闘する宇宙人を騙して利用し、マミやさやかを絶望の淵へ追い込んだ。
「どうして、そこまで私なんかを……」
「さっき話したでしょ?魔法少女になってもならなくても、私は一年で死んでしまう運命だった。魔女に襲われて寿命は縮んで、ワルプルギスの夜に貴女が殺されてしまった時点で私の心臓は止まりかけた。でも、貴女を助けようという思いがソウルジェムを輝かせた。あなたと出会えたから、私はこうして生きていられる。私は貴女から命を貰ったの、貴女の死と引き換えに」
「ほむらちゃん……」
「だから、私の命は貴女の命なの!お願い、貴女のために使わせて!」
 でなければ、ほむらのソウルジェムはグリーフシードになってしまうのだから。



 見滝原に大災害が訪れた。魔法少女から見れば、大災害などという生温い代物ではない招かれざる客が訪れたと言うべきなのだが。
 大災害の通り名はワルプルギスの夜。魔女たちの祭りとも呼ばれるそれは他の魔女と違い結界を持たず、ただ一度具現しただけでも何千人という人が犠牲になる超弩級の魔女である。
 ほむらが何としてでも殺そうとしてきた存在なのだが、当のほむらが失明してしまった以上、戦力にならないと判断した杏子はまどかに押し付けてきた。
 そして今、さやかと共にトラップを仕掛け終えてワルプルギスの夜の出現を待ちかまえていた。
「ねぇ、杏子。アンタ怖くないの?」
「尻尾巻いて逃げる方が怖ぇよ」
「……はぁ。杏子らしいというかなんというか」
「それによ、あたしらがワルプルギスの夜をぶっ殺せばさ、あたしらはヒーローになれんだ。こんな機会見逃すわけにはいかねー」
「……もしかして、そういうのに憧れてんの?」
「戦士としてこれ以上の名誉はねぇだろ」
 杏子は最後の一本になったトッポをさやかに差し出した。



 大災害ということで、見滝原の住民に避難勧告が出された。当然、鹿目家もそれを受けて避難したわけだが、避難所にまどかの姿はなかった。
「きょうはおとまりー?きゃんぷなのー?」
「ああ、そうだよ。今日はみんなでキャンプだー!」
 まどかの不在を悟られないようにと、タツヤの興味を別の方向に逸らす知久。我が娘はいったい何処へ、と若干苛立っていた詢子の携帯電話のバイブレーションが作動した。
「なんだい、こんな緊急事態のときに!」
『ごめんなさい、でもどうしても伝えなければいけないことが……』
「……ほむらちゃんかい?」
『はい』
 電話をかけてきたのはほむらであることを知って詢子は面食らってしまった。
「で、伝えなきゃならないことって?」
『まどかは今、私の傍に居ます』
「なら、早く避難しな。地震雷火事おやじは怖いぞ?」
『それは出来ません。ですが、まどかの身の安全は私が保証します。私の命に代えても、まどかは私が守ります』
「そりゃどういう……!」
 一方的に通話が切れてしまった。



 携帯電話の通話終了ボタンを押し、それを投げ捨てたほむらはSFでよく見かけるパワードスーツと呼ばれるような外部装甲をまどかに取り付けてもらっていた。
 何重にも重ねられ堅牢な鎧としての機能を持ったそれがほむらの身体を拘束していく。ただ、この外部装甲は少々特殊な代物であった。
 異様に目を引く両肩の展開式スラスターバインダーに留まらず、至るところに姿勢用制御ノズルを多数配置し、そして巨大なスラスターユニットに置き換えられた脚部と腕部により、既存の兵器とは比較にならない機動性と頑丈さおよび人のシルエットから大きく逸脱した外観を獲得した。
 最後に、ほむらは頭部の装甲をまどかに被せてもらい、準備は完了した。
 これがほむらの持つ対ワルプルギス用の最終兵器であり、前回と前々回でのループにおいてワルプルギスの夜を単独で撃破するだけの戦力を持っている。しかし、その極端な性能ために上手く扱いきれず見滝原を荒地にしてしまったこともある。
 そんな危なっかしい最終兵器はほむらの趣味に合わせて漆黒に塗装され、左肩には紫色の菱形の紋章、右肩には黒百合を模したマークがそれぞれあしらわれている。
 金属で全身を拘束したほむらに、まどかは尋ねた。
「杏子ちゃんとさやかちゃんがワルプルギスの夜と戦いに行ったことと、二人がワルプルギスの夜を倒せないことは、ほんとなの?」
「それを否定したとして、貴女は私の言葉を信じてくれるかしら」
 全身を黒い外部装甲で覆われたほむらの表情を読み取ることは困難だった。
「今更言葉にするまでもない」
 唯一露出した口元は、淡々とまどかに思いを告げるだけ。
「私は希望を求める。いざとなれば、この時間もなかったことにする。何度でも性懲りもなく無意味でしかない戦いを闇雲に繰り返す。まどかの運命を変えたと確信するその瞬間まで、私は全てを絶望で屈服させてグリーフシードにする」
「……どうしてそうまでして戦うの」
「戦う以外の選択肢なんてない。あっても、それを選ぶ時間は私には無い」
「ほむらちゃんが願いを叶えようとする限り、救われないって言うの?」
「私は救われなくてもいい。私を含めた全ての魔法少女たちを絶望させてでも、私は貴女を助けてみせる」
「でも、でも……でも!」
「だって、これは自業自得だもの」
 涙を浮かべるまどかだが、ほむらがそれを知ることはなかった。仮に知ることが出来ても、手も脚も使えないほむらではどうすることも出来ないだろう。
 この話題には一区切りついたと判断したほむらは、新たな話題を振った。
「それで、本当にいいの?」
「いい」
 まどかは袖で涙を拭いながら答えた。
「だって、ワルプルギスの夜を倒さなきゃ、みんな死んじゃうんでしょ?さやかちゃんも杏子ちゃんもパパもママもたっくんも。そんな世界、イヤだから」
「そう、まどからしくて素敵よ」
「だから、私はほむらちゃんの目になる。その代わりに、ほむらちゃんは私の力になって。私の大好きなものを全部守るための力に」
「言っておくわ、私は悪の魔法少女よ?」
「……みんな大事で、絶対に守らなきゃいけないから。そのためなら、ほむらちゃんが本当に悪い魔法少女だったとしても、私はほむらちゃんと一緒に戦う」
 ほむらは意地の悪い笑みを浮かべた。
「なら、来なさい。ワルプルギスの夜を越えるわよ」
「ありがとう、ほむらちゃん」
 こうして、ほむらは久しぶりにまどかとタッグを組んだ。



 川の水が干上がり、奇抜な色合いのファンシーな見た目の生物が現れた。ちまちまと歩いているそれは、後から来た象の群れに踏みつぶされた。そして、その群れは万国旗を引っ張っており、サーカスの巡業を宣伝しているかのようであった。
 勇ましき二人の魔法少女が、来たる悪夢を前に武者震いしていた。
 五、
 四、
「さぁ来いよ、ワルプルギスの夜!あたしら正義の魔法少女コンビがぶちのめしてやる!」
「お前なんかに見滝原を襲わせたりしない!」
 ニ、
 一。
 悪夢はその姿を現した。大地に頭を向けたシルエットの大きさは、ノリべえやアントリアンなどの宇宙人の比ではなかった。紺色の派手な舞台衣装を身に纏い、スカートの内側から無数の歯車が覗く魔女は、甲高い笑い声を上げた。
 歯車を展開し、改めて使い魔を召喚したワルプルギスの夜。
 杏子は気だるげにソウルジェムを掲げ左手を降ろしつつ右手を前に出すと、蛇が獲物を食らうように右手首を勢いよくひねり心臓の手前まで下げた。
「変身……!!」
 赤い装束の魔法少女へと変身した杏子は首の骨を鳴らしながら得物を手にした。
 続いてさやかも両腕を胸の前で交差させ、両腕を腰のあたりまで勢いよく引いた。
「変身!!」
 魔法少女への変身を省略して直接人魚の魔女へと変身したさやかは野獣のような雄叫びを上げ、左手の剣でワルプルギスの夜を指し示した。
「さぁ、戦いよ!」
「いくぜ、さやか!」



つづく



~あとがき~

 これまでにないほどのボリュームでお送りしました『ほむらーど・グラス』第九話、いかがだったでしょうか。
 自分でも手に負えないくらいのボリュームで面食らっております。ちなみに23000字を余裕で超えています。どうかしてるぜっ!

 さやかちゃんはやっぱり正義の味方が似合いますね。それも熱血系の主人公タイプ。
 杏子ちゃんは、主人公のライバルキャラでしょうか。善悪の判断を越えた先にある事実を悟った、なんというかニヒルなカンジといいますか。
 そんな二人がタッグを組んで強大な敵に立ち向かうなんて、なんというか燃える展開ですよね!
 杏さやの強みはこういうところにもあると、私は考えてます。

 そしてこれまでのお話で極悪非道の限りを尽くしてきたほむらちゃん、アニメ本編以上にハードな設定にしてみました。
 実は心臓病は完治してない、それでいて余命幾許もないという悲劇のヒロインとしか言いようのないほむらちゃん。
 かと言って何をしても許されるわけではないのです。だからこそさやかちゃんに『悪の魔法少女』呼ばわりされてしまっているわけで。
 ですが、ほむらちゃんからしてみれば立派な正義。愛と正義の魔法少女さやかちゃんと真っ向からぶつかり合うのもごくごく自然な流れでした。
 正義と正義がぶつかり合って、どちらが正しいかを決めるのは大昔から繰り返されてきたことです。正しくなければ淘汰されるのもまた然り。
 二人とも魔法少女でなければケンカップルみたいなカンジになれたのではないかとこれを書いてて密かに思ってます。

 正義と言えば、インキュベーターやアントリアンのような宇宙人の皆さんにも同じことが言えるはず。
 まあ、アントリアンの場合はほむらちゃんに利用されているだけなんですけどネ。

 さて、賢明なる読者の皆様。
 あなたは誰が正しいと思いますか?
 恩返しのために全てを犠牲にしようとするほむらちゃんですか?
 宇宙のために一個人の犠牲を厭わないインキュベーターですか?
 自分の信じるモノを他人にも理解してもらおうとする杏子ちゃんですか?
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No title
破壊大帝ホムトロン!?
タイトルのほむらーど・グラスに関連する話が出ましたね。そういう意味でのこのタイトルな訳ですな。この後、ほむらはどんな事をするのか…?

マミさんが予想外の最期を遂げた!ほとんど「エネルギー資源」としての使われ方ですねww
さやかちゃんがまさかオクタヴィアフォームを使いこなすようになっていたなんて…恐ろしい娘!!

ブラックサ●ナ!?ww大質量による物理攻撃は嫌いじゃなくってよ!
ワルプルギス戦が始まるところのカウントダウンの演出は、原作見てた時もテンション上がりましたね~。



どれが正しいかは分かりません。しかし俺の持つものに一番近い正義は、この中では恐らくインキュベーターですね。
2011/08/19 (金) 04:37:50 | URL | クチナシ #-[ 編集 ]
Re:
>>クチナシさん
破壊大帝だったら今頃さやかちゃん死んでますwww

「鏡」がどうなるか、また「鏡」がどんなものであるかが、ほむらの未来を決めてしまいます。
この世界でのほむらはマミさん大嫌いですからネ
オクタヴィアへの変身が可能になったのはおもに杏子ちゃんの愛の賜物でしww
冷静に考えたらほむらは肉弾戦苦手でしたねwwwなのに打ち抜きさせるだなんてあたしってほんとばかwww



そう、その通り。全部正義で全部悪、正しいかわからないのも無理はないのです。
実はこの質問の模範解答は「ない」なんです。
でも、そんな中でも自分がちゃんと信じられるものを持てることは、とても素敵なことだと思います。
2011/08/19 (金) 15:59:38 | URL | 影月 #-[ 編集 ]
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