カゲツキくんは作り出した何かを全力で投下していきました。
二次創作系小説を書き散らかしつつ、個人的に興味深いホビー(TF系多し)について騒ぎ立てるブログだったのですが、最近では自分で何やってるのかよくわかってません。そんなカンジのブログです。
ビフォー・ほむらーど・グラス Lonely traveler
ワルプルギスの夜=ほむら説を破壊されてソウルジェムがブレイクしてしまいそうです(ゲッソリ

そんなわけでほむら一人称の前日譚的なSSを仕上げてきましたw



↓シリーズへのリンク集です
第一話
第二話
第三話
第四話
第五話
第六話
第七話
第八話
第九話
第十話
最終話
アナザーストーリー
前日譚その①
設定集



CAUTION!!
※魔法少女まどか☆マギカに関するネタバレが含まれている恐れがあります
※このループでのほむらさんはまどかのことにならないとやる気が起きません
※キャラ崩壊、設定無視が悲惨です



以上の点を御理解いただいた上でお読み頂ければ幸いです。










 千百九十九回まどかを見殺しにし、見滝原中への千二百回目の転入を翌日に控えたある日。私は鹿目家に仕掛けた盗聴器が拾ってきたまどかの言葉を聞いて非常に不愉快になり、同時に意欲を喪失した。
 仇敵・インキュベーターと親しげに話すまどかの声が聞こえてきたのだ。話題は魔女を華やかに狩る巴マミについて。うっとりとした様子で巴マミへの憧れを口にしていた。自分もあんな魔法少女になりたいと。
 深く溜め息を吐く。既に幸せには逃げられた、溜め息を吐いて逃げるものなどない。まどかは既に魔法少女になっていた。これ以上の不幸といえば、まどかが死ぬことくらいだ。
 私はバックラーに詰め込んだ物の内容物を思い返した。アサルトライフルAK-47を三丁、マガジンの具体数は忘れた。サブマシンガンは仕舞い忘れたが、まあいい。コルト・ガバメントM1911A1は一丁のみ、マガジンは三。補充しなければ。ミニガンの銃身がそろそろ金属疲労を起こしそう、こちらも取り換えるべき。おまけ程度にアーミーナイフ四本。そして肝心要のグリーフシードは数十個確保してある。まどかとの思い出の写真はもう飾り終えた。
 それにしても銃火器が足りない。グリーフシードの回収に躍起になり過ぎたせいかしら。
 眼鏡の所在を探しながら、どこから武器を頂戴しようか思案した。久しぶりに普天間か、それとも襲い慣れた横須賀か、いっそ国外にでも行こうか。
 今回のまどかを救うことは絶対に不可能であることが判明した以上、武器の収集などしなくてもいいのだが、次回のことを考えるとやはり補充する必要はある。
――いつからこんなつまらない人間になってしまったんだろう
 ふと、そんな疑問が湧いた。今の私はこれ以外の答えなど持ち合わせていなかった。
――私はもう人間じゃない



 ビフォー・ほむらーど・グラス Lonely traveler



「あ、あの……あ、暁美…ほ、ほむらです。その、ええと……どうかよろしく、お願い、します……」
 弱々しく情けない声で自己紹介。懐かしき赤縁の眼鏡をかけた私は、誰の目から見ても『気の弱い転校生』でしかないだろう。これが私の演技だと見抜ける者はまず居ない。だってこれはかつての私を演じているだけだもの、作り上げたキャラクターじゃない。
 私の第一目標は、まどかから声をかけてもらうこと。魔法少女のまどかは例外なく自信にあふれているのだ、困惑しているコンプレックスの塊のような私を見て間違いなく手を差し伸べる。
 誰かのために身を削り滅ぼし力を使うまどかなら、絶対にそうする。
「暁美さんは心臓病で――」
 それと、あえて心臓への負荷を減らす魔法を解除しておいた。当面の間は役立たずとして振舞わなければならない以上、徹底的に演技しなければ。休み時間の度に薬を飲む必要が生じて煩わしくて仕方ないが。



「暁美さんって前の学校は――」
「髪綺麗だね――」
 転校生に興味を抱いた野次馬に取り囲まれ、慌てふためく暁美ほむらを演じるのは疲れる。やかましいのよ、貴女たち。今は休み時間、そろそろまどかが私を保健室へと案内してくれる。
「暁美さん、保健室に行かなきゃいけないんでしょ?」
 助け船を出してくれたおさげの少女を見て、思わず頬が緩みかけてしまった。ああ、やっぱり貴女は優しい。
 私の、大切な友達。鹿目まどか。



 繰り返す、私も貴女も。私は変わってしまうけど、貴女は変わらない。私は貴女との出会いを千何百回繰り返し、一つの文明が衰退してしまうほどの時間を費やしてただただ貴女を想った。でも、貴女は違う。貴女は私と初めて出会い、それから数時間も経っていない。
 繰り返せば繰り返すほど、変わらない貴女の優しさが身にしみて、辛い。
 ああ、見ず知らずの私を気遣うその声が、親しくなろうとしてくれるその気持ちが、辛い。
「ほむらちゃんもカッコよくなっちゃえばいいんだよ」
 初めて出会ったときに言ってくれたアドバイスが繰り返された。私はそれを実現できていない。
「無理です……私なんかじゃ」
「頑張れば出来るって」
「それを願っても、努力しても、無理なものは無理なんです」
 努力が実るわけがない、願いなんて望むだけ無駄と、卑屈な私はまどかに自分のソウルジェムを見せた。
 まどかは飛び上がるほど驚くでしょう。転校生が同業者――魔法少女だなんて、思いもしなかったはず。



 放課後、私はまどかに手を引かれて巴マミの住むマンションの一室を訪れた。精神安定剤を飲むタイミングを完全に失ったけれど、飲み忘れても問題はなかった。元々副作用の強い薬だからというのもあるけど。
「お邪魔、します……」
「マミさん、ほむらちゃんを連れてきました!」
「あら、その子が転校生の魔法少女なのね」
「暁美、ほむら……です」
 今すぐにでもその仮面を剥ぎ取ってやりたいわ、巴マミ。華やかな雰囲気と物腰穏やかな口調で武装した貴女の本当の姿を白日の下に晒してあげる。
 エデンの園でイヴに林檎を齧るよう唆したヘビは、駆除しなければ。しかしどうやって駆除してくれようか。私自ら手を下す?魔女との戦いで見殺しにする?それとも発狂させて誰かに殺させる?
 まどかと巴マミが談笑している間、私は巴マミの駆除方法について思考を巡らせていた。

 何もかも懐かしい。新米魔法少女だったころの私が、まどかと巴マミに魔法を披露してアドバイスを受けるこのシチュエーション。手にはゴルフクラブ、眼前にはドラム缶。まあゴルフクラブは不要だけど、一応持っておく。
「それじゃ、行きます!」
 時の流れを止め、ゴルフクラブでドラム缶を殴りつけた。シャフトが歪み、ドラム缶が凹む。たった一撃で使い物にならなくなったゴルフクラブを投棄し、左前腕に装着したバックラーをドラム缶に向けた。バックラーに注いだ魔力をビームに変換し、五発ほど発射した。バックラーから離れた段階でビームは動きを止めた。本来なら銃を使いたいが、たかがデモンストレーションのためだけに残り少ない弾薬を消耗するのは考え物。ビームで我慢しておこう。
 バックラーを動作させ、時間停止を解除すると、ビームは一斉にドラム缶を襲い、貫く。
 粗大ゴミに成り果てたドラム缶を一瞥し、巴マミが私に向かって言う。
「時間停止ねぇ、確かに凄いけど……」
「凄くなんかないです。これ以外に何も出来ないし」
「やっぱり、使い方次第ね」
 ええ、その通りね。使い方次第ではどうとでもなるわ。







 関東の某県にある暴力団事務所を襲撃した私は、自作したプラスティック爆弾で手当たり次第に周囲を爆破していると、デザートイーグルとの再開を果たした。.50AE弾も一緒だ。それも三十発ある。また世話になるわ。
 私はデザートイーグルと弾丸、ついでに9ミリの弾丸もあるだけ頂戴した。ベレッタも確かあったはず、それもバックラーに押し込んでおこう。流石にコルト・ガバメント用の弾丸はないみたい。
 事務所が火薬と血の臭いで充満してきた。そろそろ警察や消防も来る頃ね。
 バックラーを作動して時を止める。ここにはもう用はない、勝手に燃え尽きるといい。
 凍りついてしまったかのような風景をただ一人歩く私。なりたての頃は感動さえ覚えていたが、もう慣れを通り越えて見飽きてしまった。海とやらを見に行ってみたいものね。出来ることならまどかと一緒に。
「……ふぅ。馬鹿馬鹿しい」
 くだらない願いなんか、私には不要。どうせワルプルギスの夜を殺せば死ななければならないのだから。
 ふと目にとまった黒い乗用車の窓ガラスをヒールで蹴り割り、鍵をこじ開けて強引に乗車した。イグニッションキーの代わりに魔力を注ぎ込んでエンジンを作動。サイドブレーキをへし折り時間停止を解除すると同時にアクセルを踏み込むと、事務所が轟音と爆風に飲まれた。

 強奪した乗用車で国道を走る。砕かれた窓ガラスは車内に暴風を取り込んでくれる。ああもう髪が乱れる。
 ひとまずは見滝原に帰ろう、いくら巴マミに対して憤りを抱いているからと言って今回はやり過ぎた。このまま横須賀まで転がしてもいいのだけれど、必要以上に目立つわけにはいかない。
 盗聴器の受信機にスピーカーを繋ぎ、ボリュームを調節する。巴マミの自宅に仕掛けた盗聴器が何か有力な情報を拾ってくれるといいのだけれど。
『マミさ、あっ……!』
『もっと見せてくれる……?』
『は、はい……』
 スピーカーから漏れてきた、二人分のふやけた雌の声を聞いた私は思わずブレーキを踏み抜いてしまった。
 別に巴マミがレズビアンだろうがバイセクシャルだろうが構わないのだ。魔法少女である以前に彼女だって性欲を持っていてもおかしくない。だからまぐわっていようがどうしていようが私の知ったことでもないし驚くようなことでもない。一体何が私にブレーキを根元からへし折らせるような衝撃を与えのかというと。
『マミさん、そんなとこ舐めないで……!』
『どうして?』
『その、きたない……から』
『そんなことないわ』
「なんで相手が杏子なのよ!!」
 助手席に座っていた散弾銃を掴み、その銃底でフロントガラスを何度も何度も殴りつけた。そうでもしなければ落ち着いていられない。
 佐倉杏子が、あの佐倉杏子が。こともあろうか最も自身のスタイルと噛み合わないような相手に抱かれるだなんて。しかもさん付けで呼んでいる。
 まあいい。今のでだいぶ不愉快になったけれど、今回のループにおける人間関係が見えてきた。
 スライドして弾薬を装填した散弾銃の銃口をスピーカーに向けながら、それを整理した。
 とりあえず、現時点で見滝原に居る魔法少女は巴マミを中心に団結していると考えていいだろう。引き金を引いて甘ったるい声を垂れ流すスピーカーを吹き飛ばす。美国織莉子はすでに排除済みである。呉キリカは後追い自殺しただろう。千歳ゆまはどうせヒステリックな母親によるドメスティックバイオレンスの果てに死んでしまったに違いない。
 まどかと美樹さやかは共に巴マミに対してその気品溢れる立ち振る舞いと鮮やかな戦闘スタイルに魅了され、先輩として魔法少女として憧れを抱いていると考えるべきね。佐倉杏子はどうせ、捨て犬のような姿を見て思わず拾ってしまった巴マミに懐いてしまったのでしょう。反吐が出る。
 共に家族を失い、その代替になりうるものを欲しがっていたという点において巴マミおよび佐倉杏子は類似性を持っていたと考えるのなら、肉体関係にまで発展するかどうかは知らないけど、あの二人が距離を近付けるのも納得が行く。表面上では利害が一致する。
 それでも、巴マミが家族を失った経緯と佐倉杏子が家族を失った経緯にはもちろん相違があり、そこから二人の価値観に差異が生じている事実は変えようがない。身体を重ね快楽に溺れ事実に背を向けるこの二人は簡単に破滅させることが出来そうね。
 サイレンの音が聞こえてきた。バックミラーには白バイとパトカーの群れが映っている。バックラーからお土産を取り出してタイマーをセット、それを助手席に置いて時間停止。先ほど八つ当たりで破ったフロントガラスから脱出した私は散弾銃をバックラーに仕舞いながらその場から立ち去った。



 翌日。私はまたしても巴マミの自宅に連れて行かれた。美樹さやかと佐倉杏子に私を紹介したいのだとか。
 案の定、美樹さやかも魔法少女になっていた。まあ元々精神的に難のある美樹さやかが魔法少女だろうと魔女だろうと一向に構わない。歯向かうなら絶望させるだけ。
 一匹狼だったはずの佐倉杏子はすっかり飼い犬になっていた。私から言わせれば駄犬だが。
「へぇ、転校生って魔法少女だったんだね!」
「まさか弟弟子ならぬ妹弟子がまた一人増えるなんてなー」
「何さ、私はアンタのこと姉貴分だなんて思ってないんだから!」
「あぁ!?なんだ、やるかコラ!?」
 魚類と駄犬が言い争いを始めた。この辺は相変わらずね。
 それにしても不愉快極まりない。煌びやかで作り上げた仮面の裏にあるものを知って以来、私が巴マミに対して抱いていた憧れは憤怒と憎悪へと姿を変えた。一体何度この手で始末したことだろう。明らかに不利益しか生まないとわかっているのに、巴マミを中心にした繋がりを引き裂きたくてたまらなかった。
 私がとるべき選択肢は不干渉。そうすれば引き続きグリーフシードの回収や武器の調達を気兼ねなく行えるというのに、暁美ほむらはあえて干渉することを選んだ。
「……すみません、もう帰ります」
「え、どうして?」
「私はここには居られません。巴さんみたいに強くないし、鹿目さんみたいに優しくもない。美樹さんみたいに明るく振舞うことも出来ない……こんな私が居る必要、ありません」
 卑屈に振舞うことで逆に注意を引き、関係を崩す第一歩とする私の企みは上手くいきそう。帰ると言った私をまどかが止めてくれた。巴マミは美樹さやかと佐倉杏子の口論を仲裁していたが、様子のおかしい私に気付いたのかこう言ってきた。
「暁美さん、心配しなくていいのよ。佐倉さんと美樹さんの人柄は私が保証するわ」
 お前に保証してもらう必要なんてない。
 そう言い返してやろうかと思ったけど、今は抑えなければ。その機会は必ず訪れる、その時が来たらこの憤りをぶつければいい。
「……ごめんなさい」 
 私はまどかを振り切って巴マミ宅を後にした。



『どうすればいいんだろう……』
『もしかして、転校生が照れてるだけだったりして』
『アイツ、あたしらとはつるみたくないって目ェしてたぞ』
『だからと言って、放っておくわけにもいかないわ。暁美さん、自分の力を凄く過小評価していたし……』
『なんとかなりませんか?』
『止めろって、アイツなりのやり方にあたしらが文句付ける義理なんざねぇ』
『ちょ、杏子!』
 私があの場を去ってからというもの、まどかと愉快な魔法少女たちは私の扱いについて議論しており、予想通りの悪い雰囲気を会話から感じ取った。
 人間の科学力って侮れないわね、魔法さえ凌駕する利便性を発揮してくれているもの。盗聴器が拾ってくれる険悪な雰囲気の中でのやりとりを聞いて、胸がすくような気持ちになった。
 暁美ほむらを何とか仲間にしようとするまどかと、それを快く思わない佐倉杏子、そして精神面が弱い巴マミと美樹さやかが二人の間に立っているこの状況。目論見通りに事が運べそう。
 さて、私が安心して在日米軍基地から武器を譲ってもらいに行ける状況をさっさと作り上げなければ。
「キュゥべえ、居るんでしょう。話があるのだけれど」
「珍しいね。普段ならボクを追い払うくせに」
 影からぬるりと姿を現す地球外生命体に内心舌打ちをする。だが、今回コイツを呼び出したのは何も蜂の巣にするためじゃない。
「取引しましょう」
 感情のない相手に感情で話しても意味なんかない。エントロピーを凌駕するエネルギーに固執するコイツを相手にした状況で主導権を握るには、利益を生む話でペースを奪うのが一番利口。
「見滝原に居る四人の魔法少女のうち、三人を魔女にすることを約束するわ。その代わり、あなたが知っている魔法少女とインキュベーターに関する全ての情報を私に教えなさい」
 そのために、私はかつての仲間を売った。どうせあと数週間すれば何もかもなかったことになる。まどかの死も含めて。
 私の突然の要求に、インキュベーターはしばらく黙っていた。そして口を開けばいつものように私を不愉快にさせる言葉を撒き散らした。
「ボクらの星では、キミたちが持っている感情と呼ばれるそれは精神疾患でしかない。そしてこれまで見させてもらった言動から考えると、キミは二重に精神疾患を患っているように思えるんだ」
 つまり、目の前に居る不快極まりない小動物はこう言いたいのだろう。暁美ほむらは頭がおかしくなってしまったからこんなことを言っているに違いないと。腹立たしい、私は正気よ。
 溜め息をわざとらしく吐きながら、取引を提案した理由を正当化するべく私は言った。
「『暁美ほむら』は……」
 屈辱的ではあるが、この先感情を殺さねばやっていけない。最初から失敗が確約されている世界だが、それでも得るものはある。私はそれを、一切合切手に入れてみせる。
 くたびれたかのように間を置いて、続けた。
「……戦いに辟易したの」
「魔法少女であるキミにそんなこと言われても困るよ」
 あくまでもインキュベーターとしての利益を最優先して物を言うこの小動物を蜂の巣にしてやりたい。今すぐに。
 私はぐっと堪えた。これもまどかのためなのだから。
「講和したい、キュゥべえ。全てのインキュベーターの端末に対して停戦を申し入れる。終わりよ。こんなことは――」
 もちろん、嘘。佐倉杏子もびっくりな赤さの。
「――すべて終わり。終わりなき戦争もいつか終わらなくてはならない。私はこの身とソウルジェムの輝きを、インキュベーターや魔法少女たちを撃滅することではなく、宇宙を延命することに捧げたい。虐殺だけを長らくやってきたけど、何も残らなかった。何も得られなかった。今度は創造を試みてみたい。それによって……得るものがあるか知りたい」
「――撃滅?虐殺?まさか、キミが魔法少女を……」
「過ぎたことを気にしてどうするの?それであなたの欲しいものが手に入るわけじゃないでしょう」
 流石はインキュベーター、目ざといわね。そう、今回はまだ美国織莉子しか手を下してはいないけど、これまでに数えることを諦めるほどに魔法少女を葬ってきた。ただ、その話は今は関係ない。黙ってなさい。
「……確かにそうだね、キミの言う通りだ」
「あなただって損得勘定くらい出来るでしょう。私との取引に応じるべきかどうかだって、わかるはず」
「そうだね。まさかキミがボクに協力するとは思わなかったよ。これまでの魔法少女はみんなボクに頼ってきたというのに」
「肯定するか否定するかをはっきりさせないとスペアを無駄に消耗させるわよ」
「急かさなくてもいいじゃないか。どうして三人だけを魔女にさせようとするのかも気になるところだけれど、いずれにしてもボクはその取引に応じるよ」
 その言葉が聞きたかった。



 巴マミを中心とした人間関係を突き崩すためにどう立ち回るかを一晩かけて考え、次の一手は学校を休む、という結果になった。まどかを利用して雰囲気を悪くする算段である。
 今回も横須賀基地から武器を頂戴することにした私は、無断欠席を利用して行動を起こした。インキュベーターとの取引を成立させて獲得したインキュベーターと魔法少女に関する未知の情報を頭の中で整理しながら、私は路上駐車されていた軽自動車を拝借した。それにしても、こんな事実があっただなんて……。
 ゼリー飲料を食道に流し込みながら、街中で軽自動車を転がす。すっかり運転にも慣れてしまった。違法行為を行っている罪悪感はどこへ行ってしまったのだろう。まあ、まどかのためだから仕方ない。



 無反動砲にミニガン、それに軽機関銃多数やミサイルランチャー、手榴弾に迫撃砲そして各種弾薬を調達した私は帰路についた。在日米軍基地では流石に穏やかに頂戴させてもらった。起爆するにはいささか広すぎる。
 廃工場に軽自動車を乗り捨てて徒歩で帰宅。盗品である以上、アパートの前に駐車するわけにはいかない。夕焼け色の通学路をはしゃぎながら歩く小学生たちとすれ違いながら、アパートを目指す。
 自宅のある階まで上がると、見慣れたおさげが目に留まった。見滝原中の制服を着た彼女はどういうわけか我が家の玄関の前に立ってそわそわしている。
「まど――」
 思わず名前で呼んでしまいそうになるが、ぐっとこらえた。ああ、胸が苦しい。いつものように、貴女を名前で呼びたいのに。
「――鹿目、さん?」
 大嫌いな弱い自分を演じ、力を隠し他人を陥れる卑怯な私。仕方ないと言い聞かせても、心臓を握り潰されそうな罪悪感は消えない、誤魔化せない。苛立ちさえ覚える。
 ひどく心を乱す私の声に気付いたのか、びくっと驚くまどか。恐る恐る振り向いて私の顔を見た。
「ほむらちゃん!?」
「ど、どうしたんですか?」
 驚きたいのは私の方だ、なんでここを知って……ああ、成程。早乙女先生から聞き出したのね。それにしても、一体何をしに来たのだろう。だいたいの察しはつくが。
 まどかは学生鞄からプリントを取り出してそれらを差し出した。気を利かせてくれたのか、それともただの口実か。
「はい。今日の分のプリント、持ってきたよ」
「あ、ありがとう……ございます」
 はっきり言って、わざわざプリントを持ってくるためだけに住所を聞き出すとは思えない。そしてもしそうだとしたなら、貴女は恐らくこう言う。どうして今日は学校を休んだの、と。そこから更に昨日の話に繋げるだろう。考えられるまどかの目的は、私の説得。
 本当に、まどかは優しすぎる。破滅を招き入れる結果になるとは知らずに、私のために手を差し伸べてくれた。
 ごめんねまどか。
「……それで、今日はどうしたの?」
「ええっと、その……」
「答えたくないなら答えなくてもいいんだよ。でも、出来れば話してくれると嬉しいな」
 貴女を利用するわ。







 どうにも心臓の調子が悪い。魔法で底上げした身体能力に追いついていないのか、それとも別の要因があるのかは分からない。普段からしっかりと飲んでいるはずの薬も効かないとなると、今回のループでの私の身体はそんなに短命なのかと思ってしまう。まあ、ソウルジェムがある以上は死ぬことなく延々苦しみ続けるだけなのだけれど……仕方ない、今回はグリーフシード回収は諦めよう。武器調達も次回に回す。今回は――巴マミへのリベンジに専念する。
 全く以て不毛だというのに、私の頭は既に次の一手を考えていた。動機が嫉妬なのか怨恨なのかそれ以外の何かは知らない、でもここまでして巴マミを葬りたいのもまた事実。
 そもそも五人も魔法少女が居たのでは思うように立ち回れないだろう。本調子の出せない私がわざわざ参戦する必要なんてない。来たるべきその時のために蓄えておかなければ。
 ……いや、逆にこの状況を逆手に取ろう。恐らくは巴マミたちは四人組で魔女と戦っているだろうから、そこへ乱入しスタンドプレーをすれば、私を仲間にするかどうかで更に意見が割れるだろう。時間も猶予もグリーフシードもある、じわじわと仲間割れさせてあげる。
 昨日まどかが訪ねてきた際に、私はさりげなく彼女のローファーに発信器を仕掛けた。統計上、魔女が出現しやすいのは夕方頃。そしてその時間帯の中学生はまだ制服のままであることが多い。条件が重なりさえすれば、まどかが狩り場へと導いてくれる。
 そして今、条件が重なった。発信器の反応がとある廃ビルで途絶えたことから察するに、まどかは魔法少女に変身したかあるいは、魔女の結界の中に足を踏み入れたと推測される。さて、私もそこへ向かおう。魔女を狩り、魔法少女を獲物に育てるために。



 廃ビルのフロア中に転がっている自殺志願者の頭蓋骨を誤ってヒールで踏み抜いてしまった。別にどうでもいいけど。
 結界に足を踏み入れ、魔女と戦う四人の健気な魔法少女の姿を見て、私は呆れた。仲良しこよしで四人がかりで魔女を狩ることがどれだけ非効率的なのかを理解するだけの能力を持った魔法少女はこの見滝原に居ないのかしらと。
 近距離戦闘を得意とする美樹さやかと佐倉杏子を前衛にし、まどかと巴マミが後衛から支援射撃するフォーメーションをとったのは良いとする。しかし連携にムラがあり過ぎる。前衛二人の攻撃は頻繁に干渉しあってまともにダメージを与えられていないし、まどかも巴マミも誤射を繰り返すし、実に悲惨ね。
 見るに堪えない、それこそ三流漫才師のコントのような戦いぶりに溜め息を吐く。下の下の以下ね。まどかの背後に接近している数匹の使い魔共にAK-47の銃口を向け、時間停止。セミオートで一体につき一発ずつお見舞いしてあげるわ。撃ち終えたAK-47にセーフティをかけてバックラーに押し込み、時間停止解除。
 破裂音に驚いて振り向き、風穴をあけられて汚らしい液体を撒き散らす使い魔共を見て更に驚くまどか。そんな調子で大丈夫なの?
「ほむらちゃん、来てくれたの!?」
 大丈夫じゃない。私と目が合い、眩しい笑顔を見せるまどかは完全に攻撃の手を止めて喜んだ。芳しくない戦況にも注意を向けなさい。可愛いからいいけど。
 私はかすかに頷いて返事した。
「魔女は、倒さなきゃいけませんから」
 そう、人の心を惑わす魔女は一片の欠片も残さずに。
 もう一度時間を止め、バックラーから手榴弾を三個ほど取り出す。動きを止めた魔女の開け放ったままの口の中に、ピンを引き抜いた手榴弾を放り込んだ。解除。
 口いっぱいに爆薬を頬張った魔女の首は、さながらアクション映画のCMのように派手な爆発を引き起こして消失した。残された身体も虚しく倒れ、グリーフシードを吐き出した。
 ここまでは予定通りだった。あとはこのまま何も言わずに立ち去るだけ。それを実行しようとして、視界が明滅し始めた。いけない、無茶し過ぎた。ぐらぐらす――



「あ、マミさん!ほむらちゃんが起きたみたいです!」
「おーおー、今回のなんたらピーがお目覚めかい」
「エムブイピー、でしょ?意味は私も知らないけど」
「もう、無理に起こしちゃダメよ」
 私の身に何が起きたのかはだいたいわかった。
 魔女を撃破した直後に倒れた私は巴マミの自宅に担ぎ込まれ看病と称して寝顔を見られていたに違いない。この面子が揃い、尚且つ紅茶の香りで満ちている場所と言えば巴マミの自宅以外に私は思いつかない。ああ、早く帰りたい。ここはとても居心地が悪い。
 ただ簡単に帰れるとは思えない。数秒だけでも隙が出来れば、と思っても無理なものは無理。まどかと美樹さやかと佐倉杏子の興味は目覚めた私に向いている。巴マミがお菓子でも持ってくれば容易に脱出できるのだけれど、視界が回復した時点で紅茶を味わっていた巴マミが何かを持ってくる気配はない。
 はっきり言って嫌な予感しかしない。統計に基づいたものではないから具体的にどうとは言えないけど、多分ろくなことにならない。そして私の予感は的中した。当たって欲しくなかったのに。
「ほむらちゃん、大丈夫?」
「は、はい」
「何だよてめー、なかなか腕がたつじゃねーか」
「そんなこと……」
「もう、素直になりなって!友だちできないぞ、転校生?」
「え、えと」
 三方向からの言葉による一斉砲火が襲いかかり私の処理速度が落ちそうになった。演技中でなければ効率良く応対出来るのだが。
 そこへ、巴マミが助け舟を出してきた。
「はいはい、みんなそこまでよ。暁美さんは起きたばっかりなんだから」
 物足りなさを露骨に見せた三人は渋々と引き下がった。別に貴女の助けなんか要らなかったのに。
 身体を起こしながら巴マミの方に向き直ると、巴マミが口を開いた。
「暁美さん、さっきはありがとう。でも無理して戦わないこと。いい?」
 私は弱々しく頷く。
「困ったら私たちを頼って頂戴。魔法少女同士、助け合いましょう」
 魔法少女が?助け合いですって?
 反吐が出る。
 どんな願いをしたいところで、結局はエゴでしかない。自分だけ満たされたいと望んだからこそ、魂と引き換えに契約した魔法少女がそんな芸当を出来るはずがない。夢の見すぎよ、巴マミ。






 まどかが地球よりも巨大な魔女を仕留める光景を見ていると、ぴしり、と音がした。左手の甲に目をやると、ソウルジェムに小さなひびが入っていた。なんだ、死んじゃうんだ。
『まどか、これで君の人生は――始まりも終わりもなくなった。この世界に生きた証も、その記憶も、もう何処にも残されていない。君という存在は、一つ上の領域にシフトして、ただの概念に成り果ててしまった。もう誰も君を認識できないし、君もまた誰にも干渉できない。君はこの宇宙の一員ではなくなった』
 インキュベーターの律儀な解説が、テレパシーとして伝わってきた。もうまどかと会えないのなら、死んだ方がいいのかもしれない。ただでさえ役に立たなかったバックラーが魔法少女の衣装ごと消えた今、魔法のない私にはもう生きる意味なんてなかった。
 何もかも諦めてしまった私のソウルジェムは、果たして濁りきってしまうのが先かそれとも砕けてしまうのが先か。
『諦めないで、ほむらちゃん』
 まどかの声が、頭の中に響いてきた。
『今の私にはね、過去と未来の全てが見えるの。かつてあった宇宙も、いつかあり得るかもしれない宇宙も、みんな』
 いつか、あり得るかもしれない宇宙……?
 わずかに希望が見えてきた。
 もしもまどかの言うあり得るかもしれない宇宙――未来のことだろうけど――でも、まどかが私の姿を見ているのだとしたら、その宇宙での私はまどかのために戦い続けているのだろう。ということは、この状況を覆すこともできる。そうでなければタイムパラドックスが引き起こされ、私が戦っている未来が滅茶苦茶になって、まどかがその光景を見ることはなくなる。
 私は強くイメージした。目の前で神秘的な光を纏ったまどかではなく、美樹さやかや志筑仁美と一緒に笑顔で登校するまどかを。過去も未来も全て知っているまどかではなく、何も知らずに家族と一緒に食卓を囲むまどかを。
『ごめんね、まどか』
『どうしたの……?』
『貴女の願い、阻止させてもらう』
 魔法少女としての衣装は無理だったけど、なんとかバックラーを復元できた。
『これがまどかの望んだ結末だって、私は認めない。こんな終わり方で、まどかは報われるだなんて思えない。まどかの帰る場所がなくなって、まどかの大好きな人たちと離れ離れになって、まどかがこんな場所に独りぼっちで永遠に取り残されるなんて、私は許さない。私はまどかを忘れるわけにはいかない。感じ取れなくなるわけにもいかない。……だから!!』
 ソウルジェムを軋ませながら、私はバックラーを作動させた。
『まどかの居ない見滝原なんか、世界なんか、宇宙なんか、要らない!!全部、なかったことにする!!』
 神秘的な空間が色を失い、砂のように崩れていく。
『ほむらちゃん、そんなことしたら死んじゃうよ!』
『私は……っ!一ヶ月も生きられない身体なの!私なんかのために、まどかが消える必要はないのに……!ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!』
 形容し難い激痛が両手両脚と首に襲いかかったと思ったら、見事に引き千切られていた。断面からは血じゃなくて砂。バラバラになった肢体が視界に飛び込んでくるが、それどころじゃなかった。痛い、どうしようもなく痛い。
『ほむらちゃあああああああん!!』

 今にして思えば、ここから何もかもおかしくなっちゃったのかな。

 こうしてまた病院のベッドで目を覚ました私に、躊躇いとか、そういうものはほとんど残っていなかった。身体を起こし、いずれ魔法少女としてまどかに接触してくるであろう巴マミを暗殺しに行った。かつて助けてもらった恩なんて忘れて、遠慮なくソウルジェムを砕く。
 まどかが消えてしまうことを阻止する方が優先されるのだから、仕方ない。
 そう自分に言い聞かせて、美樹さやかを、佐倉杏子を、殺した。
 何百回と繰り返すうちに、今ではすっかり、それが当たり前になってしまった。
 今回もそれを繰り返す。







 巴マミ、佐倉杏子、美樹さやか、そしてまどかの仲良し魔法少女四人組と微妙な距離感を保ちながら、鎮痛剤と精神安定剤を何度も摂取してなんとか共闘してきた。だがそれも今日で最後。
 ワルプルギスの夜出現まで残り一週間を切った。そろそろ片付けなければいけない。心臓への負荷を減らす魔法をかけ直し、銃器のメンテナンスを軽く行う。あの四人組は私のせいで相当イライラしたでしょうね、仲間に入るかと思えばどこかに姿を消したり、時に邪魔をしたりしてきたもの。最低の雰囲気が続いているのでしょうけど、これで終わりにしてあげるから。
 巴マミの携帯電話の番号をダイアルして呼び出す。
『はい、巴です』
「ととと、巴さん!大変です!!」
『暁美さん、どうしたの!?』
「海苔巻きみたいな魔女が、口をがばって!」
『さっきまでどこにいたの?』
「地下鉄で……きゃぁぁぁ!?」
 わざとらしい悲鳴を上げて通話を打ち切った。私はわざと穢れを溜めたソウルジェムに、お菓子の魔女・シャルロッテから回収したグリーフシードを近づけて穢れを吸わせた。あと一回使えば、魔女がグリーフシードから孵化するはず。
 ソウルジェムは卵のような形をしている。そんなソウルジェムからグリーフシード――要するに魔女を孵すからこそ、連中は『孵卵器(インキュベーター)』を名乗ったのね。それなら私も孵卵者(インキュベーター)かしら。
 下らないことはこの辺にしておく。インキュベーターが巴マミとまどかと愉快な仲間たちを案内しており、まもなくここに着く。巴マミの墓場に。



「暁美さん!」
「ほむらちゃん!」
「ほむら、大丈夫!?」
「チッ、呼び出したくせにもうケリつけやがったのか」
 来た来た。何も知らずにやってきた魔女の卵たち。血相を変えて地下鉄のホームに乗り込んできた彼女らは、魔女の反応を感知できずに戸惑っている。
 私はおもむろに眼鏡を外してその場に落とすと、ローファーで踏み潰した。
「ありがとう、ここまで来てくれて。でも魔女は最初から居ない。これから産まれる」
「暁美さん、どういうことなの?」
「私は孵卵者(インキュベーター)。貴女たちの希望を全て打ち砕くために、ここに誘いこんだ」
 巴マミの返事を待たずに即座に変身し、時間を止めてデザートイーグルを取り出す。セーフティを外し、スライドして構えた。手始めに巴マミの右肩を狙って一発、佐倉杏子には両肩に一発ずつ放つと、セーフティをかけてバックラーに仕舞う。そして停止解除。無残にも腕を肩ごと吹き飛ばされる巴マミと佐倉杏子。このままゾンビ映画に出演できるわよ、貴女たち。
「ほむらちゃん、何してるの!?私たちが戦う必要なんて……!」
「まどか、援護頼んだよ!」
 巴マミの仇とばかりに剣を振り上げた美樹さやか。本当に無駄と隙の多い戦い方ね、いい加減に直しなさい。
 背中に魔力を集中させて黒い翼を形成すると、私は重力を振り切って飛び上がった。美樹さやかの振るった剣は見事に空振り、ハッとした顔で宙に浮いた私を見た。バックラーに魔力を注ぎ、ビームとして乱射した。
 二次元的で単調な攻撃とはいえ、美樹さやかは降り注ぐビームの雨に困惑し逃げ惑った。
 そんな残念な美樹さやかに援護射撃を頼まれたまどかは、本当に私を撃っていいのかどうか悩んでいるらしく、弓を構えながらも一向に攻撃してくる気配はなかった。利き手を失った巴マミはマスケット銃を手にして私を撃ち落とそうと引き金を引いてはいるが、ビームに阻まれた弾丸が私の元まで飛来するようなことはなかった。一番厄介な佐倉杏子には戦闘不能になってもらった。両腕の無い槍使いに何が出来るのか。
 ビームの乱射を止め、ホームの床に着地し、魔力の翼を霧散させた私はシャルロッテのグリーフシードをソウルジェムにあてがった。
「目に焼き付けなさい。孵卵者(インキュベーター)の所業を」
 穢れを限界まで溜めこんだグリーフシードを放り投げると、放物線を描いたグリーフシードは鈍い光を放った。今一度産まれなさい、欲望に忠実なかつて人の子であった者よ。



 お菓子まみれの結界内部。この結界の主、お菓子の魔女・シャルロッテが早速恵方巻きのような姿で舌なめずりしていた。何が起きたのか全く理解していない四人は辺りを見回している。
 本当に、真面目に戦う気があるのかしら。
 コンビニで買っておいた『さけるチーズ』なる棒状のチーズを巴マミに向かって投げつける。チーズは巴マミの足元に転がった。怪訝そうな顔で足元のチーズに目をやる巴マミ。その行動が命取りよ。
 シャルロッテが大口を開けてチーズごと巴マミを捕食しようとした瞬間に時間を停止させる。まどかと美樹さやかがシャルロッテの攻撃に気付いて武器を構えていた。反応が遅すぎるわ。
 シャルロッテの長い長い胴体に飛び乗ると、硬直していたシャルロッテは捕食を再開した。巴マミの首に食らいつくと同時に時間停止を解除。
 最初に骨が砕け肉が咀嚼される音が結界に響き渡り、続いて飼い主の首から上を目の前で噛み砕かれてしまった哀れな駄犬、佐倉杏子の絶叫が鼓膜をひどく叩いた。まどかと美樹さやかは目を見開いてはいるけれど声は出せない様子。憧れなんて、簡単に砕かれるものなのよ。
 シャルロッテは巴マミの首を飲み込むと、残された巴マミの身体が力なく倒れた。そして犬のように巴マミの身体とチーズにがっついた。
「マミさぁぁぁぁぁん!!」
 佐倉杏子、今更名前を叫んだところで結末は変わらないの。巴マミはチーズを添えられて魔女の餌になった。以上。
 巴マミを排除した今、シャルロッテは用済み。始末しなければ。
 バックラーから手製の爆弾を三本取り出し、チーズを求めて蠢くシャルロッテの口の中に放り込んだ。チーズと勘違いして爆弾を飲み込んだシャルロッテは、内側から爆発してしまった。それにともなって結界が収縮を始めた。
 あっけなく撃破されたシャルロッテの身体は固体と液体の中間地点とでも言うべき状態になり、新たなグリーフシードを吐き出した。
 それを回収する前に、私の後ろから襲いかかってきた佐倉杏子の分身を排除しなければ。
 分身の総数は十三。それらは全て同じ姿形をしており、五体満足でかつ得物の槍をしっかりと持っていた。
「マミさんの仇だ……!あたしのとっておき、『ロッソ・ファンタズマ』でとってやる!!」
「犬のくせに生意気よ」
 十三体の分身が一斉に襲いかかってきたが、こんなこともあろうかと背後に仕掛けておいて正解だったみたいね、地雷。単純な挙動しか出来ない分身たちは、十三体とも敷設された地雷にむかって猛ダッシュし、尽く吹き飛んで消滅した。
 呆然と立ちつくした佐倉杏子の首を鷲掴みし、締め上げる。もちろん殺す気なんてない。ソウルジェムが濁りきるまで苦しませてやる。
「ぐ……!放しやがれ……!」
「おかしいわね、私の知ってる佐倉杏子はこんなに弱くないのに。それとも……巴マミと関わり合ううちに、平和ボケでもしたのかしら」
「う、うぜぇ……!こいつ……超、うぜぇ!」
 負け犬の遠吠えだなんて、情けない。ここまできたら駄犬以下ね。
 胸元のソウルジェムを見てみると、だいぶ濁っていた。あと一押しで魔女化するはず。では、その一押しはどうするべきか。
 ……考えるまでもなかったみたい。怒りに身を任せた美樹さやかが、またしても剣を振り上げて突っ込んできた。今私の手にあるモノが何かわかっていてそう判断したというのなら、私はその判断を尊重するわ、美樹さやか。
 首を絞めていた手を離し、佐倉杏子を解放した私は一歩下がって事の顛末を見届けることにした。
 私を斬りつけようとしていた美樹さやかは手にしていた剣を振り降ろした。だが、美樹さやかが斬ったのは私じゃない。
「どうして……!?」
「き、杏子!!」
 佐倉杏子だ。
 AK-47を取り出して発射準備を行いながら、袈裟斬りにされた哀れな佐倉杏子と、凶刃を振るった愚かな美樹さやかによる茶番を黙って見ることにした。
 自力で立てなくなったのか、倒れそうになった佐倉杏子。そして剣を捨ててそんな彼女を抱きかかえる美樹さやか。
「はっ……あいつの言う通りだな。マミさんに頼っちまったから、こんなに弱っちくなったみたいだ……」
「何言ってんの、あんな卑怯な奴の話なんか真に受けてんじゃないわよ!今すぐ治してあげるから!」
「もう遅ェ……逃げな」
「諦めないでよ!」
 飽きた。
 私はAK-47の銃口を佐倉杏子と美樹さやかの二人に向けて引き金を引いた。フルオートで三十発撃ち切るまで引き続けた。もちろんソウルジェムに当たらないようにして。
 弾丸のほとんどは佐倉杏子に命中した。美樹さやかには数発程度。それでも二人の肉を抉り風穴をあけ出血させた。
 マガジンを切り離して投棄し、AK-47をバックラーに押し込んだ。そしてデザートイーグルを取り出してセーフティを解除する。佐倉杏子はさきほどのフルオート射撃で虫の息、もうまもなく魔力が枯渇して魔女になるだろう。美樹さやかにも、同じ運命をたどってもらう。二人仲良く、まとめて魔女になってしまうといい。
 躊躇する必要なんてなかった、ただ引き金を引くだけでいい。それだけで美樹さやかの頭は水風船のように破裂し、致命的なダメージを受ける。そしてそれを治癒すべく魔力が消費される。ただでさえ巴マミの死のショックで濁っているソウルジェムに更に負担をかければ、もれなく美樹さやかも魔女になる。
 私は引き金を引いた。大口径の弾丸は美樹さやかの頭ではなく、佐倉杏子の胴体を貫いて美樹さやかの腹部に命中した。狙いは外してしまったが、概ね期待通りの結果が出るだろう。
 セーフティをかけたデザートイーグルを仕舞い、私は時間を止めてその場から立ち去った。
 苦しさと辛さでいっぱいの、まどかの泣き顔を見ないようにしながら。







「まさかキミもインキュベーターを名乗るとはね」
「地球流のジョークよ」
 ワルプルギスの夜出現前夜、私は部屋に飾っていた写真をバックラーに仕舞っていた。
 どこからともなく現れたキュゥべえはずいぶんと上機嫌だ。
「魔法少女としての能力や自分の立場を最大限利用して、杏子とさやかを魔女にしてしまうとはね。流石だと褒めてあげたいよ」
「嬉しくとも何ともないのだけれど。私はただやるべきことをやっただけ」
「キミをインキュベーターにしたいところだよ。グリーフシードの欠点を逆に利用して巴マミを排除し、その上であの場に居た三人を絶望させた、その柔軟な発想を評価してね」
 罪悪感なんてとうの昔に捨ててしまったはずなのに、時々不意を突くようにして湧きあがってきて、胸を締め上げる。今がまさにそう。
 弱くて、卑怯で、それでいて自分勝手で、直そうと思っても無理で。眼鏡を掛け、長い髪を三つ編みにしていた頃と何も変わっていなくて。いつまでもいつまでもまどかが苦しみながら死んでいく結末ばかり見て、未だにまどかが幸せそうにこの一ヶ月を終える姿を見れていない。
 私は延々喋り続けるインキュベーターに、起爆装置のスイッチを差し出した。
「これはなんだい?」
「まどかは確実にワルプルギスの夜を退ける。相討ちで魔女になるか、それなりに穢れを溜めて生還する。もし後者だった場合、このスイッチを押しなさい。避難場所になる見滝原中の体育館を全壊させる爆弾が作動するわ」
「ボクに渡さなくてもいいじゃないか」
「こっちの方が確実だもの」
 最後の一錠になった精神安定剤を無理矢理飲み込んだ。副作用で随分と身体に負担がかかるけれど、こうでもしなければやっていられない。身体なんてどうにでもなる。心の方はどうしようもない。どれだけ鎧で身を固めても、弱いものは弱い。外骨格を持つ節足動物と何ら変わりない。
 私はインキュベーターにこう告げて、ワルプルギスの夜の出現予測ポイントへ向かう。
「まどかを、絶望させに行ってくる」

 不愉快極まりない甲高い笑い声をあげるワルプルギスの夜に、まどかはたった一人で立ち向かおうとしていた。無理もない、巴マミは食われ、佐倉杏子と美樹さやかは魔女になった以上、この見滝原にいる魔法少女はまどかだけとなったのだから。
 私はまどかの背中を、身の丈に合わないくらい大きいものを背負った背中を見つめていた。いつも思う、どうしてそこまでしてこんな世界を、宇宙を救おうとするの?力があることは資格があることとは違うのに、義務があることとは違うのに。この世界は、宇宙は、貴女の優しさを、強さを利用して生き延びようとしているのに。どうしてなの?
 でも、それがまどからしいところなんだよね。
 まどかを死なせたくない、苦しませたくない。ずっと笑顔で、ずっと幸せであってほしい。強く強く何度も祈っても願っても、私はまたまどかを傷つけてしまった。
――私がまどかの代わりになれたら、どんなによかったことか
 ぼやいたって仕方ない。やることやってさっさと時間を巻き戻さねば。
「まどか」
「……何しにきたの」
「仕事よ」
 まどかは肩を震わせながら、二つのグリーフシードを取り出した。
「これ、杏子ちゃんとさやかちゃんだったんだよ……ほむらちゃんがあんなことしなかったら、二人ともこんな姿にならなかったのに。ほむらちゃんは、辛くないの?苦しくないの?悲しくないの?」
「私に、そんな感情は要らない」
 そう、要らない。辛くて苦しくて悲しくてどうしようもなくなっているようじゃ、魔法少女は務まらない。自分に何度もそう言っているのに、未だに排除できていない。
 珍しく、まどかが怒っていた。巴マミを殺し佐倉杏子と美樹さやかを魔女にしたことがまどかを怒らせた原因だろう。
 まどかの手の中にあるグリーフシードから察するに、まどかがかつて佐倉杏子と美樹さやかだった者を葬ったと考えられる。それもまた、まどかの怒りを激しくさせている。
「おかしいよ!ほむらちゃんだって、元々は普通の女の子だったはずなのに!マミさんも杏子ちゃんもさやかちゃんも、ほむらちゃんと何にも変わらないのに!」
「……普通の女の子だったらどんなに楽だったことかしら」
「どういう、こと?」
「少なくとも今の貴女には関係ないことよ」
 何より、同情される必要はない。
 バックラーに右手を添え、私は呟く。
「今までありがとう、まどか。私は次の戦場に行く。そこでまた会いましょう」
「ほむらちゃん、それどういう――」
「貴女なら、一人でワルプルギスの夜を倒せるわ」
 さようなら、千二百人目のまどか。



 時に見殺しにし、時に救えず、時に自ら手を下す。
 あと何回繰り返せばいいのだろう。あと何回繰り返せば終わるのだろう。
 ねぇ、まどか。いつか、貴女を救い出したその時には――



おわれない



~おまけ~



「ぅぅぅぅぅぅぅっ……!!」
(この押し殺すような泣き声……!間違いない、ほむらちゃんだ!)
「どうして……こんな役回りばっかり!」
「ほむらちゃん、どうかした?」(やっぱり泣いてるー。ほむらちゃんの泣き顔はたまらないなぁウェヒヒヒ)
「このシリーズ始まって以来、頭のおかしい演技ばっかりさせられてるの……。私もそろそろ、普通の女子中学生らしいことがしたいの……」
「ねぇ、ほむらちゃん。私ね、このシリーズ好きだよ。だって」
「だって?」
「ほむらちゃんが私のこと大事に思ってくれてるってことがよくわかったもん」
「まどか……」
「そうでなきゃ、あんなすごいアクションとか演技とか出来ないよ」
「うん……。まどかが居なかったら、私、あんなこと出来なかった」
「まあ台本に細工したり脚本書き変えたりほむらちゃんが発狂するシーン追加したの私なんだけどね!」
「まど……か?」
「ごめんね、ほむらちゃん」
「なんで……!?なんでこんなことを……!!」
「ほむらちゃんが可愛過ぎるのがいけないんだよ。私のためにどうにかなっちゃうほむらちゃん、とっても可愛かったよ……。誰にも見せたくないくらい、誰にも渡したくないくらい」
「何を言っているの……?」
「……もしかしてほむらちゃん、ヘテロ?ていうかノンケ?」
「テロリストじゃないし、ノンケってなに?」
(あちゃー、ダメだよほむらちゃん。まさかの天然だなんて)
「まどか?」
「と・に・か・く!私はほむらちゃんのことが大好き、ってこと!」
「嬉しいのだけれど、もう少し穏やかに好意を伝えて欲しいわ」
「頑張ってみるね」



「ところでこのシリーズのほむらちゃんがヘテロだったって設定に違和感覚えなかった人はあとで屋上に来ようね」



~あとがき~



 メガほむ、クールほむ、リボほむ/ツインテほむ、と様々な形態をもつほむらちゃん。
 影月個人としては、ほむらちゃんはメガほむをベースにクールほむやリボほむ/ツインテほむといったキャラクタを上書きしてパーソナリティーを構築していると考えています。
 過去の自分を捨てたのではなく、過去の自分を上書きしただけなので、ふとした拍子にボロリとメガほむの面が出てきてしまう。今回はそれを意識してみました。
 とか言ってみましたが、これただ単に情緒不安定なだけでしたHAHAHA
 一ループあたり約一ヵ月間すごすという前提で計算式を立てますと、千二百ループ÷一年(十二ヶ月)=百年 という曾孫さえ生まれていてもおかしくないような時間を過ごしている(設定の)今回のほむらちゃん。裏設定で合計で約一ヶ月に相当する分の時間停止が可能であるため、時間停止中のほむらちゃんの体感時間も考慮して計算しますと、千二百ループ÷一年(十二ヶ月)×二(※一ループにつき一ヶ月分体感時間が追加されるため)=二百年 となります。ギネスブックも真っ青です。
 概算二百年分のストレス、ハイパーアルティメットまどかが実行した世界改変を強制キャンセルしたことよる負荷、精神安定剤などの副作用などが積み重なった結果、この作品でのほむらちゃんのキャラクタが固まったわけです。で、ここからさらに体感時間にしておよそ四万二千四十年分のストレスと複数回に及ぶ世界改変キャンセル、薬品の副作用が必要以上に積み重なって、拙作『ほむらーど・グラス』でのイカレきったほむらちゃんが出来上がった、という設定でございます。

 今にして思うんですけど、どうしてここまでキャラぶっ壊しちゃったんでしょうか自分←

 あと、力業でマミあん捻じ込みましたが、結局マミあんほむになってしまいました。どんだけマミさんのことぼっちにさせたいん自分。
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