カゲツキくんは作り出した何かを全力で投下していきました。
二次創作系小説を書き散らかしつつ、個人的に興味深いホビー(TF系多し)について騒ぎ立てるブログだったのですが、最近では自分で何やってるのかよくわかってません。そんなカンジのブログです。
寄り添って!杏子さん
一ヶ月も放置してしまいましたネーいけませんネーほんとに
はいこちらではご無沙汰しておりました影月でございます
一ヶ月ほど前に這いよれ!ニャル子さんを全巻一気に買って一気読みして見事にはまってしまいましたよああ真尋くんかわいい

さてさて今回はpixivの方ですでにうpしながらもこちらでうpしていなかった、ニャル子さんパロディのまどマギ二次SSをうpしようかと思います

あと衝動的にアニメイト限定版水着シャンタッ君ぬいぐるみセットの這いよれ!ニャル子さん10を予約してしまいましたこうなったのもシャンタッ君がいけないんだ(爆)



 藤色の空、赤黒い雲、朱色の満月は三つ子。明らかに常とは異なる夜空の下、美樹さやかは逃走者となっていました。
 やむを得ず深夜に外出したさやかは、突如として出現した得体の知れない変質者に追われ、通り慣れたはずの道を駆け抜けて逃げているのです。しかしながら慣れ親しんだ道をいくら走っても自宅に到達することはなく、さやかは迷路の中で延々と同じルートを辿り続けているような感覚に陥っていました。
「何なのよ、何なのよアンタ!?」
 粗末なマントで首から下を隠し、剃髪した頭と顔の一部はポリゴンで構築されたビジュアルが崩壊しているかのような、聖人を思わせつつも人工物を彷彿とさせる変質者に怒鳴りながらも走り続けるさやかでしたが、終わらない物語などどこにもないように、さやかは袋小路に行きついてしまいます。
 前方と左右はよじ登るには高すぎる塀があり、振り返れば変質者がにじり寄ってきています。上や下へ逃げようにも、飛行スキルを使用して飛べるわけでもないし多脚を利用してドリル戦車よろしく地中を掘り進むなんて芸当は出来ません。物理的に八方塞がってしまったさやかは十数年とちょっとの人生の中で最も大きな声を発しました。発してどうにかなるわけではないと思っていても、さやかは叫んだのです。
「誰かっ、誰かぁぁぁぁぁ!!」
「呼んだかい?」
 さやかの悲痛な叫びに何者かが答えたかと思えば、次の瞬間には変質者の腹部から右前腕――真っ当な人間のものが生えていました。正確には貫通していると描写すべきなのでしょうが、さやかからはそう見えたのです。
 変質者の腹部から飛び出した右前腕が捻りを加えながら後退すると、腹部に開いた風穴から砂と思わしき粉末がばら撒かれ、瞬く間に変質者の全身が同様の粉末と化してしまいます。人の形を成していたそれが砂の小山になり、さやかを助けたヒーローの姿が露わになりました。
 宵闇に映える長い赤、さやかと同じかもしくはそれよりわずかに低い背丈と、少女と形容すべき顔立ち。ファッション雑誌のストリートスナップで掲載されてもおかしくないような彼女は嫌みったらしい笑顔をさやかに見せつけてきました。
 抜き打ちで先ほどの変質者を貫いたらしい右手から粉末をパラパラとこぼしながら、その少女は名乗ります。
「いつもニコニコアンタの傍に寄り添う幻覚、佐倉杏子だ」
 よろしくね、と下手くそなウィンクをしてみせる杏子の名乗り口上はすこぶる嫌なものでした。



 イカれたカラーリングだった夜空の下で繰り広げられた逃走劇は闖入者の登場によって強制終了。その後さやかは杏子によって家に送られたのですがお茶請けを食い荒されるは、どさくさに紛れて着替え覗かれそうになるは、挙げ句朝になって現実逃避しようとした瞬間に現実を突き付けられるは、とにかく疲れを増長させられていました。
 にも関わらず、燃料切れしたから飯作れとダイニングで行き倒れて呻いていた杏子の要求に応えてきっちり二人前の朝食を作りましたが。
「昨日は危なかったなー、あたしが居なかったら今頃汚いおっさんに×××××されてたからなー多分。ああ、うん、別に礼とかいらねーから。それにしても日本人の朝食といえば白いご飯だよなーお前わかってるじゃん」
 満面の笑みで食卓に並べられた半熟の目玉焼きやこんがりと焼かれたベーコンやサラダや白いご飯やジャガイモの味噌汁を手当たり次第に頬張り咀嚼し味わい嚥下してマシンガントークを敢行する杏子を見て、何だか悪い気がしなくもないさやかでしたが、昨晩襲撃してきた変質者や着色ミス著しい夜空やそんな中颯爽と現れて自分を助けた杏子自身について何も聞かされていなかったので、さっさと聞き出さないといけないと意を決して口を開いたさやか。
「それはいいから、昨日のことについて詳しく説明してくれない?」
「あとスナック菓子もいいよなうんまい棒とかポテチとか」
「だからあたしの質問に」
「お、もうこんな時間か!始まるぞー待望のスーパーヒロインタイム!」
 さやかの知る権利の行使を徹底的に無視しなおかつそれによって発生する説明の義務を放棄する杏子は食卓でひっくり返っていたリモコンを使ってテレビの電源をオンにしました。
 刹那、スピーカーからは爆発音、液晶画面からは爆風が再生されます。
『お前……!あの地獄から生きて帰ってきたというのか!?』
 映像の中の煙が晴れ、緋色の着物を着流した艶やかな女性が姿を現しました。
『武旦の魔女、オフィーリア……自棄に行くよ!』
 ステンドグラスのような装飾を施した槍を振りかざし、群れる雑兵を薙ぎ払うべく吶喊。
 テレビ画面の中で繰り広げられる戦いでテンションを上げている杏子だって昨日似たようなことをしていたはずなのですが、その辺はどうなのでしょうか。
 顔を引き攣らせながらじっと我慢していたさやかの分の目玉焼きの黄身の部分だけ器用に略奪し、味噌汁の二杯目を杏子が要求したその瞬間、食卓で放置されていた三叉の銀食器の出番が訪れます。
 さやかはフォークを拾い上げ、構え、杏子が防御態勢に入るよりも素早くフォークを彼女の手の甲に突き立てました。
「はいフォークでドーン!!」
「あぎゃあああ!?」



 抵抗しようとした杏子に第二、第三のフォークを投擲して命中させたさやかは杏子の弱点を把握してさりげなくポケットにフォークを数本落としつつ、再度説明を要求しました。
 二人の夫婦漫才を交えた説明は尺的な都合上不可能なのでこちらで説明いたします。
 昨日さやかを助けた少女の名は佐倉杏子。生物学的な分類は魔法少女。職業は惑星保護機構のエージェント。
 惑星保護機構というのはある一定の水準以下の文明の、未発達な惑星へのあらゆる悪影響(薬物や人身売買などといった密輸がメイン)をシャットアウトするための公的機関で、今回杏子が派遣されたのにもれっきとした大義名分が存在しており、杏子の気紛れでさやか宅に押しかけタダ飯を貪っているわけではないのです。
 その大義名分というのが、以前から惑星保護機構がマークしていた犯罪組織であり、薬物や人身売買においては宇宙で名を馳せるウルトラ悪いその組織が、この辺境銀河の片田舎の水の星のとある地域で相当な規模の取引を行うという情報がリークされ、その取引リストの中にさやかの住所氏名年齢電話番号スリーサイズ学業における成績男遍歴女遍歴家族構成昨日着用していた下着の色その他諸々が記載されていたため、組織の流通ルートの撃滅と取引の殲滅、そしてさやかの護衛を行うべく地球に杏子が派遣されました。しかし生身で大気圏突入を敢行し現地拠点となるはずだった風見野の森に墜落しその衝撃で一切合切破砕してしまったので護衛中は居候させて欲しいとのこと。
 これまでの出来事を振り返ると頭が痛くなるさやかでしたが、昨日は間違いなく目の前の捨て犬よろしく目をうるうるさせている魔法少女に助けられたわけで、無下に扱うわけにもいきません。まがりなりにも杏子はさやかの命の恩人であり、今後も件の変質者による襲撃が予想される以上は杏子による護衛は必須。多少の暴走は餌付けとフォークで御せるようですし、何よりファーストキスもロストヴァージンも果たさないまま死にたくないので、渋々といった様子ではありましたが杏子の居候を認めることに。エンゲル係数が天元突破してしまう心配は安全になってからしても遅くはありません。
「えっと、その」
「ん?」
「よ、よろしくね」
「何が?」
「何が、じゃないでしょうよ……アンタ本当にあたしの護衛してくれるんでしょうね?」
「当たり前だろ、それがあたしの仕事なんだからさ。給料とメシの分はきっちり守ってやる」
 目の前の守護者兼大飯食らいが自身の胸元を二回拳で叩いてさやかを指差します。再びさやかの頭を軽い痛みが襲いました。



 杏子が地球に来た理由は三つ!
 一つ、さやかの護衛!
 二つ、犯罪組織の持つ流通ルートならびに組織自体の破壊!
 三つ、地球がトップレベルの保護対象として指定されている要因である『娯楽文化』にまつわるもののショッピング!
 三つ目の理由を開示しコミック・アニメ系統およびそれらの関連アイテム専門店や大手家電量販店、中古玩具専門店などにさやかを連れ回した杏子は、ひとしきりショッピングを終えると大量の紙袋を抱えたまま某ハンバーガーチェーン店に入店します。
 百円で購入できる一番安価なハンバーガーを山ほど注文した杏子は、席取りのために戦利品共々店内の隅の方の席で疲れを見せていたさやかの元へ戻っていきます。
「全く、地球入りしたからってあたしにおつかい頼むなんて……自分で行けっての」
「え、これ全部アンタのじゃないの」
「違うね。あたしのは受注生産の超合金グレートマジョガインパーフェクトモードと初回限定版オクタヴィアの唄と紅のオフィーリアブルーレイBOXだけ」
「ちゃっかり買ってるし」
「ま、あたしらが潰そうとしてるとこもこーゆーの……アンタらでいうところの『サブカルチャー』目当てで密入星してるからね」
「地球の外ってこういうの好きな奴ばっかりなワケ……?」
「そうじゃない。経済のお話だ。地球の外じゃ技術はあってもこのテのモノは精神構造的な問題で作れない。作れてもそりゃ一握り。供給がお粗末すぎて需要と釣り合ってないのさ。昨日のアイツ、魔獣みたいなのが地球に一斉に来たらたまったもんじゃないだろ?そういうのを阻止するためにウチが入星を管理して、地球産の娯楽を影響が出ない程度にウチが認可した業者に流通させるのが普通なんだ。ただ、正規ルートだとモノが少ないから甘い汁啜るために密入星なんてする奴が湧いてくる」
「地球で起きてる問題を宇宙規模にしただけっしょそれ」
「理解できない物事を理解するためにスケール変えるのは当然だろ。実際はもっと面倒なところを、かなり圧縮して話してやってんだから感謝してくれ」
「まずアンタが買ったモノを地球外に持ち出していいのかどうかを答えてくれないかな」
「さやか」
「会ってそんなに時間経ってないのに呼び捨て?」
「バレなきゃ犯罪じゃあない」
「あ、ごめん手が滑って今の台詞録画しちゃったからよろしく」
「よろしくじゃねぇぇぇぇぇ!!」
「アンタにも上司いるんでしょ?公的機関のエージェントなんだから。その人にこれ聞かされたくなかったら真面目に」
 くぅぅ。
「……腹が減ったら何とかって言うだろ」
「うん。食べよっか」
 杏子のお腹が鳴る音をしっかりと聞いてしまったさやかは、視線をわざと外した杏子に悪意を何割か込めた笑みを向けます。こいつも可愛げあるじゃん、なんて思ってしまったのがさやかの運の尽きなわけでありますが、それはまた後ほど。



 ハンバーガーチェーン店を出てからというもの、さやかは杏子の地球観光に巻き込まれてしまい、今日何度目かの溜め息を吐きました。隙を見てさやかが百円均一で商品を販売している店で購入しておいたフォークは既にその威力を発揮しており、先端が若干赤く染まっています。
「舞い上がってんじゃないのアンタ」
「舞い上がった次の瞬間にフォークで刺してくるお前に言われたくない」
「あ、認めちゃうんだ」
「上司に無理言ってこの事件担当させてもらったし、舞い上がってないって言ったら嘘になるのは間違いないな」
「なんでわざわざ……って、そういえばそっか」
 さやかは杏子が手にしている相当な重量と体積と密度を持つ紙袋多数に視線を落としました。地球産の娯楽は犯罪に手を染めてしまう者が現れるだけの価値があるのです。実際杏子もいくつか購入している以上、目的は杏子の口から聞き出さなくとも明白。しかし、それだけじゃねー、と杏子。
「それだけだったらあたし自ら出向かなくても他の奴に頼めば済む話だろ」
「じゃあ、その他の理由って?」
「取引リストの中にさやかの名前と一緒にプロフィールが載ってたのは話したよな?当然あたしらは仕事上それを見るわけで」
「どうでもいいけど宇宙に個人情報保護法もプライバシーもないんだね」
「あたしが一目見たとき、こう、ソウルジェムが発熱するような気持ちになったんだ……平たく言うなら、ストライクゾーンど真ん中?」
「はい?」
 魔法少女はその名の通り、生物学上でいうところの雌の個体しか存在しません。かつては魔法少年なる雄の個体のみが存在するアナザーバージョンが存在していたそうですが、根拠となる文献が存在しないため存在の証明は不可能なのですがそれはさておき。頬を赤らめてさやかの腕にいつの間にか抱きついていた杏子は魔法少女で、さやかは日本人の女子学生。二人とも女性です。同性愛に対する認識が浅く、またさほど寛大ではないケースの多い日本人であるさやかは、同性である杏子に告白されて困惑しています。
「だから一目惚れしたんだよ、さやかに!言わせんな恥ずかしい!」
「公私混同しないの!ていうかあたしもアンタも女でしょ!?」
「言っておいた方が仕事もスムーズになることもあるぞ」
「さっきまで買い物してた奴が言う台詞じゃなーい!」
「……おっけ、じゃあこれからあたし仕事するから、これ持ってな」
 先刻までの恋する乙女の表情が一瞬で消え失せ、邂逅を果たしてから今まで見たことのない、真剣さに満ちた表情となった杏子から戦利品を押し付けられふらつくさやか。さやかの腕から離れた杏子は指の骨をバキバキと鳴らし、手刀で虚空を切り裂きました。
 刹那、さやかが襲撃されたときの、彩色チェックを怠ったかのような色合いへと空が変貌。周囲の建造物はそのままに、さやかと杏子以外の人影は一切合切消え失せています。そして、昨日の襲撃者と全く同じ外見の魔獣が腹部を切り裂かれ野太い呻き声をあげてのた打ち回っていました。
「ウボァー」
「ハッ、やっぱりさやかを連れ出して正解だったみたいだ」
「何それ、あたしを囮にしたわけ!?」
「もちろん、一般人に気付かれないためのご都合主義全開な結界張れるんだけどな、建物の中じゃ張っても内装ぶっ壊しちまう。自分んチぶっ壊されたくないだろ?」
「そりゃそうだけど、でも、ここまでアウトローだったなんて……」
「魔法少女はこれくらいじゃあないとやってられないんだよ」
 杏子は右足のブーツのヒール部分を地面に叩きつけます。すると、何らかのギミックが作動したのか、ヒールから鋭利な刃が出現しました。物語が始まって以来最終回を迎えても孤独なままのヒーローよろしく、杏子が雄叫びをあげます。
「本当にあたしのこと守ってくれ……ってうるさい!」
「こういうのはテンションが大事なんだっての!」
 助走をつけてアスファルトを蹴り、ジャンプした杏子は右足を最上段まで振り上げました。振り上げられたヒールには殺傷能力の高い刃があり、杏子は魔獣の頭と同じ高さまでジャンプしています。さやかはこの後何が起こるかを理解して杏子と魔獣に背を向け目を強く瞑り耳を塞いでしゃがみ込みました。
 数分後、さやかはゆっくりと目を開きます。空の色が正常化し人影も元に戻ったのを目にし、耳を塞いでいた手を離して立ち上がりました。振り返るとそこには一仕事終えたような顔で額を袖で拭いながらさやかのバッグからちょろまかしておいた飲みかけの三百五十ミリリットルペットボトルの紅茶を一気飲みしている杏子の姿が。ヒールから飛び出した刃は未だ収納されていません。
 さやかはポケットに忍ばせているフォークの使用を本気で検討しましたが、先ほどはいかなる手段を使ったかは不明とはいえ助けられたのです。ここは一つ、その活躍を労うべきだと三割五分ほどの怒りを抑えたさやかが杏子に近寄りました。
「どうだった?あたしの宇宙CQCは?あ、宇宙CQCって宇宙Close Quarters Combatって」
「見てないし、聞いてないし。ていうかアンタ実は犯罪組織側の人間なんじゃないの」
「葦原さんバカにすんなよ」
「葦原さんって誰?」
「さっきの宇宙CQC『野獣がごとき不死身のヒールクロウ』の開発者」
「適当に形容詞つけてない?」
「それはいいとして、ちゃんと仕事したぞ」
 いささか問題のある仕事内容ではありましたが。
「うん、そうだね。アンタのおかげで助かったのは間違いないし……その」
 頬を人差し指で掻きながら、やっとのことでさやかは一言を搾り出します。
「……ありがと」
「いんや、仕事だし、お礼なんて言われるほどのことでもないって。……でもどうしてもお礼がしたいってんなら、やっぱり」
 唇を突き出した杏子が距離を詰めてきて一言。
「さやかが大好きだ!」
「調子に乗んないでよね」
 当然のごとく杏子が要求したご褒美のチューは折檻のフォークになりましたとさ。



***



「ふんぐるい・むぐるうなふ・くとぅぐあ・ふぉまるはうと・んがあ・ぐあ・なふるたぐん・いあ!くとぅぐあ!」
「ゲルトルートお嬢様、何をなされておいでで?」
「魔獣があんまりにも役に立たないからクトゥグアを召喚する呪文を唱える練習をしているの」
「クトゥグアですと!そのような者を呼ばれては、薔薇園が!」
「私の結界に呼ぶわけないじゃないアンソニー」
「いや、ですが、ゲルトルートお嬢様自身も……!」
「心配しなくてもいいの。召喚というかもうレプリカ買ってるし」
「はい?」
「演出のために呪文の練習をしていただけだから、安心して」
「あの、そうではなくて、クトゥグアのレプリカとは?」
「クトゥグアを魔法少女フォーマットで再現した試作品がネットオークションに流出したからエリーに頼んで落札してもらったの」
「何でそんなものが……」
「性能はお墨付きですって」
「しかし……」
「惑星保護機構の派遣したエージェントと刺し違えてくれればそれでいいの。始まりにして永遠の物語の舞台(ミタキハラ)での取引さえ成功させればいいんだから」



***



「ねえ」
「どーした?」
「本当に一人で学校に行っても大丈夫なわけ?」
「問題ないって。野暮用でちょっと消えるだけだし、さやかに何かあったらSLの化け物みたいに世界中のどんなところにでも三分以内に駆けつけてやるよ。絶対に、絶対にだ」
 そんな会話を杏子と朝の食卓で交わしたさやかは自身の通う学校へと登校し、自分の席に腰をおろしました。窓際の、後ろから数えて二番目の好条件な席につくと、一つ前の席に既に座っていた男子生徒が声をかけてきました。
「おはよう、さやか」
「おっす、恭介」
 彼の名は上条恭介。さやかとは幼馴染なのですが、全くと言ってフラグが立つ気配がありません。気の知れた友人同士という、ゴシップ好きの人間が疑ってかかるような関係なのですが、実際問題それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもないのです。
 疲れが顔からにじみ出ていたのか、恭介に心配されるさやかでしたが口が裂けても『地球外生命体の人外に襲われた』とか『地球外生命体の魔法少女に惚れられた』とか言えないので適当にはぐらかしました。
 さて、この後のショートホームルームで軽い事件が発生します。
「今日はみんなに転校生を紹介します。はい、入ってきてねー」
 担任の英語教師の促されて入ってきたのは、赤い長髪をなびかせる、左手中指に指輪を嵌めた少女。さやかはこの少女の正体を知っていました。
「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!悪を倒せとあたしを呼ぶ!あたしはいつもニコニコさやかの傍に寄り添う幻覚、佐倉杏子!」
 お呼びとあらば、と続けようとした次の瞬間には黒板にフォークが数本突き刺さっており、さやかからの身も凍るような視線を感じたため、名乗り口上を中断する杏子でした。



 授業中の杏子の暴走やゴシップ好きな女子生徒の協力によりクラス中に瞬く間にさやかと杏子の関係に纏わる噂が尾びれ背びれ胸びれにスクリューまで載せて広まってしまい今後の学校生活に対する不安を抱きざるを得ないさやか。対照的に杏子はさやかとクラス公認の仲になれたと純粋無垢な笑みを浮かべていました。黙って笑っていれば可愛いのに一度口を開けば男勝りな口調で喋り出し学生鞄から無尽蔵に出てくるお菓子を平らげるものですからクラス内では残念な美少女という評価がつけられようとしているのです。あながち間違いではないのですが。
 さて杏子が使用者の生体時間を加速させるマジカルアイテムと幻覚魔法を最大限活用した分身召喚による人海戦術でもって作り上げた、地球外生命体の肉を使ったと思わしきから揚げを除いてごくごく普通の弁当を食べて昼休みを終えたさやかが次の時間の授業で窓の外側から件の魔獣を発見し、なんだかんだあって杏子が名状しがたいバールのようなもので華麗に撃滅して無事に今日一日分の授業を終えて帰宅した後のお話をしましょうか。
 そう、それは命の洗濯。入浴中の出来事です。
 さやかは湯船に浸かりながら愚痴を零していました。
 何故自分が人身売買の取引リストに載っていたのか、そんな自分に一目惚れした杏子を何故派遣したのか、そしてその杏子がここまで暴走するのか。そういった内容の愚痴を浴室で反響させます。二十四時間以内に発生した複数回に及ぶ第三種接近遭遇のせいですっかり疲弊していたさやかは唇を水面にくっつけてブクブクと泡を作り出しました。
 そのとき、不思議なことが起こります。
「いつもニコニコさやかの傍に寄り添う幻覚、佐倉杏子!湯気に紛れて只今到着!」
 湯気の中から全裸の杏子が現れました。浴室の戸は開いてません。窓も同様。他に出入りが可能な場所はありません。名乗り口上で幻覚を自称しているだけあり、幻のように出現したのです。もちろんディフェンスに定評のある湯気であんなところやこんなところは隠れています。DVDおよびBD発売の暁にはディフェンスに定評のある湯気消えますよえぇ。
「何よアンタさっさと出てってよー!」
「別にいいじゃんか見ても見られても減るもんでもないし」
 杏子に背を向けて怒鳴るさやかでしたが、杏子の気配は消えません。それどころか接近しています。
「それにさ、今さやかの御両親は居ないわけだろ?どーせなら既成事実を作ろうかなぁ、って……!」
 舌なめずりする杏子の表情は完全にケダモノのものでした。ターララーイズ。
「大丈夫だって、あたしの魔法なら痛み消せるし、それに怖くもないぞー」
 恐怖と悪寒に身を震わせていたさやかは咄嗟に湯船に沈めていたフォークを浮上させ、杏子の頚部に突き立てて迎撃します。
「現在進行形で怖いのよバカー!!」
「ざぁくれろぉー!?」
 東経百三十九度北緯三十六度に存在する都市に向かって、空から悪意が一つ、落ちていくのに気付かぬまま夜は更けていくのでした。
スポンサーサイト
コメント
コメント
コメントの投稿
URL:
本文:
パスワード:
非公開コメント: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
トラックバック URL
トラックバック
copyright © 2017 カゲツキくんは作り出した何かを全力で投下していきました。 all rights reserved.
Powered by FC2ブログ.